久遠の神話
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第二十四話 七人目の影その四
「ぷりぷりとして歯ざわりもよくて」
「それで甘さもですね」
「自然の甘さですね」
きな粉の甘さ、それを感じ取りながらの言葉だ。
「お餅自体にもありますが」
「きな粉もまたですね」
「お砂糖を少し入れていますか?」
「このお店の入れてないです」
「ですね。では本当にきな粉独自の甘さで」
「そのままの甘さです」
「ううん、何といいますか」
もう一個食べた。それでだ。
そのうえでだ。また言う聡美だった。
「いいですね。これは幾らでもです」
「食べられますね」
「いけます。日本人はこんな美味しいものを食べているのですか」
「あの、何かそこまで言われますと」
「何か?」
「恥ずかしいですよ」
照れ笑いになって応える樹里だった。
「そこまで絶賛してもらうと」
「ですが本当にです」
「美味しいんですね」
「こんなお菓子ははじめてです」
「ギリシアにもないんですか」
「はい、ありません」
本当にないというのだ。ギリシアには。
そしてついだ。こんなことも言ってしまうのだった。
「アンブロジアより美味しいかも知れません」
「アンブロジア?」
「何ですか、それは」
樹里だけでなく上城もだった。二人で聡美が今言ったアンブロジアという単語に問い返した。二人共怪訝な顔になり目を少し丸くさせている。
「はじめて聞きましたけれど」
「それは一体」
「あっ、ギリシアの企業のお菓子でして」
聡美ははっとした顔になった。そのうえで内心しまったと思った。だがそのことを隠して表には出さずにだ。二人にこういうことにして話したのである。
「林檎を使ったお菓子です」
「林檎をですか」
「それを使ったものですか」
「パイみたいなものです」
こういうことにするのだった。事実を隠して。
「とても美味しいです」
「へえ、ギリシアのお菓子ですか」
「そんなのがあるんですね」
「そうです。とにかく美味しくて」
「けれどそれよりもですか」
「きな粉餅は美味しいんですね」
「そうです。そうとさえ思えます」
こう言うのだった。実際にそのきな粉餅を食べながら。
「こんな美味しいお菓子がある日本は幸せですね」
「あの、ですからそこまで言われると」
再び照れ笑いになって言う樹里だった。
「恥ずかしいですよ」
「ですが本当に」
「あまり褒められると。自分のことではないですけれど」
「日本のことだからですね」
「はい、恥ずかしいです」
そうだというのだ。
「ですからそれ位にして下さい」
「左様ですか」
「それではですね」
ここまで話してだ。そうしてだった。
三人でそのきな粉餅、そして抹茶を楽しむのだった。そういったものを食べてからだ。
聡美はあらためてだ。上城に話すのだった。
「それで七人目の剣士ですが」
「はい、そのことですね」
「近いうちに必ず姿を現します」
それは間違いないというのだ。聡美は深刻だがはっきりとした顔と声で答える。
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