チートだと思ったら・・・・・・
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二話
「ついにこの日がやってきた!」
そう、今日はあの合コンの日なのだ! 一体誰が来るのだろうか……主催の一人が柿崎である以上、チア部のメンバー+亜子というのが俺の予想だ。とりあえず……目一杯楽しむぞ! 緊張で話せるか不安だけどな!
「おー、ようやく来たか」
「あれ……? 約束までまだ時間あるよな?」
集合時間二十分前だと言うのに主催の友人ともう一人は既に来ていた。相手は……まだ来てないみたいだな。さすがに最後に到着ってのは嫌だし……
ちなみに俺の服装はアーチャーがhollowで着ていた黒の上下である。髪は勿論後ろに流している。こうしてみると本当にアーチャーそのものだ。ただ、何故か身長は百七十半ばしかなかった。これから伸びて最終的には……と言うことだろうか? 何にしても、中学生にはとてもじゃないが見えない容姿だ。
「はは、馬鹿だな。お前達に事前に打ち合わせしてもらうに決まってんだろ?」
「打ち合わせ……?」
一体コイツは何を言い出すのだろうか? 合コンで何かをやらかすのだろうか? 正直、変なことには巻込んで欲しくないものだ。
「俺と美砂は途中で抜けるから、その後残った四人でどうするかだよ」
抜ける……だと? 畜生、既に二人になる算段がたってやがる。しかし、抜けるってんなら何で合コンなんかを持ち掛けてきたんだ? 近頃の若者の考えることは分からんなぁ~って、俺も若者か。それにしても、桜子かくぎみーか……はたまた亜子か……この内の二人と俺と友人B(仮)が四人で行動することになるのか……あくまでも前者二人は予想だが。
まぁ良いのではないかと思う。亜子は好きなキャラだったし、強運の桜子に若干苦労人染みたくぎみーも嫌いではない。漫画のキャラから人物へと昇華した彼女等が実際はどんな風なのか……非常に興味もあるのだ。
「突然だな……事前に教えて欲しかったが、まぁ誘って貰った手前だ。異論はない」
「よし、それじゃあ早速話し合え」
貴様は何にも口出ししてこんのか。何かアドバイスくらいしろこのヤロー。
「アイツはあてにならん。どうやら彼女と二人で抜けた後のことで頭が一杯のようだ」
自分と同じことを考えていたらしい。友人Bが話し掛けてくる。表情を読まれたのだろうか? 気をつけよう。
「それで、どうする?」
自慢じゃないが、俺は女との付き合いなんて殆どなかった。精々姉貴と従姉妹、そしてたまたま趣味のあったクラスメイト数名くらいだ。それも、両手の指で足りる程度の人数だ。以前の俺も異性との交友関係はほぼないと言っていい。まぁ男子校に通っているのだから仕方ないと言えるが。
「俺に頼られてもな……ゲーセンかカラオケか、ボーリング。それくらいしか思い浮かばん」
「俺も大して変わらんな……その場の流れに任せよう」
「そうだな」
男子二人揃ってなさけない……心中で落ち込みながらも、そろそろやってくるだろう相手に期待を高めた。
そして、遂に相手がやってきた。
陽に輝く鮮やかなオレンジの髪、左右で色の違う瞳。鈴の付いたリボンで髪を二つに縛っている少女に、俺は言葉も無く見惚れてしまった。
「それじゃあ、とりあえず動こうか。折角集まったんだし、色々と遊ばないとな」
集合した後、軽く自己紹介を行った俺達は男側の声に従いとりあえず街を歩いた。どうにも、詳しい日程は皆無らしい。その都度皆の要望を聞きながら動いていくらしい。
それよりも、だ。俺は先程、思わず見惚れてしまった少女に目を向ける。
“神楽坂 明日菜”
原作の主人公、ネギ・スプリングフィールドの最初のパートナーであり、ヒロインの一人だ。桜子が来ることは予想通りであったが、正直、彼女が来る等予想外にも程があった。だが、今ではこの出会いに感謝したい。彼女が笑っている所を見ると、コチラも何故か元気が沸いてくるのだ。
(主役級に会えた喜びか……はたまた別のものなのか……)
そんなことはどうでもいい。今、この限りある時間を楽しもう。
考え事をしている間も彼女から視線を外していなかったためか、彼女がコチラの視線に気付き、歩み寄ってくる。
「あの、どうかしましたか?」
「ああ、何だか疲れている様に見えたからな。少し気になった」
これは嘘ではなく本当に思っていたことだ。楽しそうに笑っている時もあるのだが、そうでない時は表情に若干の疲れが見える。
「あー……分かります? 実は同居人が騒ぎばかり起こして……」
「同室の者が何かやらかしたのか?」
「いえ、何かやったと言えばやったんですけど……元を辿れば私の部屋にいる事自体が問題と言うか……」
ハッキリとしない物言いだが、想像はつく。ネギの事だろう。この時期はまだバトルがなく、基本日常話だったと記憶している。
「よく分からないが。君も大変だな……ああ、それと敬語は使わなくていい。見えないかもしれないが、同い年だしな。それと、呼ぶ時は健二で構わない」
「うん、分かった。私のことも明日菜でいいわよ、健二」
名前で呼ぶ許しを得た。できれば、携帯の番号を教えてもらいところだが、急いては事をし損じるとも言うしな……いざと言う時、ちゃんと教えて欲しいと言えるだろうか? ヘタレな自分が恨めしい。
「健二」
「何だ?」
「健二は何で今日の合コンに来たの?」
なしてそんな質問をするのでありませう……まさか合コンと言う響きに憧れていたと言えるはずもない。とりあえず、適当な答えを返す。
「通っているのが男子校だからな、女っ気がまるでないと言うのはいうまでもないが……まぁたまには異性と話したりしたいと思うのは仕方ないというものだろう。私はそんなつもりは毛頭ないが、男色に目覚めると言うのもいやな話だからな」
「はは、は……確かに、それは嫌ね」
「人事の様に言っているが、明日菜の方も同姓同士が……と言う可能性がないわけではないだろう?」
「……ウチのクラスは大丈夫、だと思いたいわ」
何を思い出したのだろうか……明日菜が暗い雰囲気を纏っている。……聞かない方がいいんだろうなぁ。
「まぁ、大丈夫だろう。……多分」
「多分とか言わないで。逆に不安になるから」
「驚いた、君は耳がいいな」
本当に小さく呟いたつもりだったが、明日菜にはしっかり聞こえていたようだ。そんなことより、今、気付いたことが一つ。
「他の四人は、どこだ?」
「本当だ、いつの間にかいなくなってる……」
いつの間にか明日菜と二人きりになってしまった。一体俺にどないせいと?
「ダメだな。見つからん」
「本当、どこ行ったのかしら?」
あれから暫く辺りを探してみたものの、他の四人は見つからなかった。……携帯が繋がらないことから何か作為的なものを感じるのは気のせいだろうか?
「しかし、どうしたものか……暫く時間を置く、という手もあるが、どうする?」
「そうね……携帯も繋がらないし、しょうがないか」
そうして、とりあえず俺達は早めの昼食をとることにした。パスタが美味しいと人気の店に行ってみたが、これが噂通りに美味かった。明日菜も笑顔で食べてたしな。良かった良かった。
「あぁ!? また失敗!」
「どれ、俺がやってみよう」
やはり携帯の繋がらない四人を探すことを諦めた俺達は、只今ゲームセンターでUFOキャッチャーをプレイ中だ。
「これで、よし」
「あ! 本当に取れたじゃない! やるわね!」
取り出し口から戦利品(熊のぬいぐるみ)を明日菜に手渡す。
「貰っていいの? 折角取ったのに」
「おいおい、男の部屋にそれを飾れと?」
「それもそうね」
その後も、いくつかのゲームで遊んだわけだか……明日菜が半端なく強かった。ゾンビを的確に撃っていく腕には惚れ惚れしたものだ。
だが、楽しかった時間にもそろそろ終わりが訪れる。
「大分、日が暮れてきたな」
「そうね~。そろそろ帰らないと」
……結局、携帯の番号を聞くことはできなかった。これから先チャンスがあるとは限らないと言うのに……俺のバカヤロー。
「………………」
「………………」
会話無く駅への道を歩く。何とも気まずい雰囲気だ。何とかしたいと思うのだが、俺にそんなスキルはない。
「ねぇ、健二」
結局何も出来ずに歩いているしかなかった所に、明日菜から声がかかる。
「何だ?」
「初恋は実らないって言うけど……健二はどう思う?」
……とりあえず話に乗ろうと思ったら、そんな話題ですか? 正直、そんな事言われても大した答えなんて用意できない。だが、明日菜の声色は真剣だ。なら、こちらも精一杯答えるべきだろう。
「初恋、か……私見だが、実らないというよりは気付くんじゃないか?」
「……気付く?」
「そうだ。実際はどうなのか知らんが、初恋なんてものは早ければ幼稚園の頃でも芽生えるものだ。だが、成長するにつれて人との繋がりも増え、思考も豊かになっていく。幼い頃の思いを否定するわけではないが、自然と、自分はこの人が本当に好きなわけではないと気付いていくのだろう」
俺の答えに、黙ってしまう明日菜。恐らく、今彼女の頭のなかはタカミチのことで締められているのだろう。神楽坂 明日菜はタカミチが好き……分かっていたことだが、改めてそう認識すると、胸が何故か痛んだ。
「そう、かもね。でも、私はまだ終わってない」
無意識だったのか、それと俺に向けての言葉なのか……
「頑張ろう」
そう言って、明日菜は見惚れる笑みを浮かべた。
「俺は次で降りる」
「そっか」
電車の中、もう後何分もしない内に別れると言うのに会話はない。向かい合って座り、相手の顔をぼんやりと見つめる。
そんなことをしている内に、下車する駅に到着した。
「それではな。今日は楽しかったぞ」
「私もよ。あ、そうだ!」
明日菜がメモ用紙を取り出し、手渡してきた。
「それ、私の携帯の番号。また暇があったら遊びましょう。今度はルームメイトも紹介するわ」
「ああ、暇ができたら連絡しよう。必ず、な」
電車のドアが閉まる。ゆっくりと、明日菜を乗せた電車が離れていく。俺は、電車が見えなくなるまで、その場で見送った。
家に帰宅後、俺の携帯のアドレス帳にはしっかりと、“神楽坂 明日菜”の名が加えられていた。
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