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久遠の神話

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第二十三話 七人目の影その十


「量を食いたいのならここだ」
「それと飲むのなら猛虎堂ね」
「そうした店だな」
「あとスタープラチナとか白鯨とか」
 女はそうした店の名前も挙げていく。
「結構あるわよね」
「そうだな。そいうした店が多くて何よりだ」
「そうそう。それでね」
 食べながらだ。女はさらに言う。
「ここのお店って豚骨じゃない」
「それが余計に」
「私ラーメンは豚骨が一番好きだから」
 それでだというのだ。見れば白いスープの中の麺は細めである。
「だから余計にいいのよ」
「豚骨は身体にいいからな」
「カルシウムが多くてね」
「それにコラーゲンも多い」
「美容食なのよ。豚骨ラーメンって」
 こうまで言うのだった。
「だから時々こうして食べないとね」
「駄目か」
「気が済まないのよ」
 力説だったが言うのはこうした言葉でだった。
「最低でも二週間に一回はね」
「豚骨ラーメンを食べる」
「そうそう。お母さんもお父さんも豚骨派だから」
「あの人達もか」
「関西だけれどね」
 だがそれでもだというのだ。
「それが好きなのよ」
「それはどうしてなのかな」
「あれなのよ。私が生まれる前に二人で。新婚の時にね」
 その頃にだというのだ。
「九州に旅行に行って」
「福岡か」
「他にも長崎にも行ったらしいけれど」
「福岡のラーメンを食ったか」
「屋台でね。それでらしいのよ」
「豚骨派になったんだな」
 九州といえば豚骨だ。それが九州のラーメンだ。
「それでか」
「そうなのよ。それで私もね」
「豚骨派か」
「トリガラのラーメンも好きだけれどね」
「それでも一番はか」
「そう。豚骨」
 まさにそれだというのだ。彼女は実際にその豚骨スープ、白いそれをだ。
 レンゲを使って笑顔で飲みつつだ。それで話すのだった。
「これが一番好きよ」
「豚骨か」
 ここで広瀬は店の周りを見回した。するとだ。
 壁にかけられているメニューに普通のラーメンと一緒にトリガララーメンとある。値段は普通のラーメンと一緒だがその二つは完全に分けられていた。
 それを見てだ。彼は言うのだった。
「ここじゃそれが普通だがな」
「関西じゃ他のお店だとね」
「トリガラの方がメインだからな」
「そうよね。私はそれ程じゃないけれど」
 それでもだとだ。彼女は眉を少し顰めさせて広瀬に話した。
「お父さんとお母さんはね」
「違うか」
「もう豚骨でないと駄目なのよ」
「それでないと食べた気にならない」
「そうなの。ややこしいことにね」
「確かに難しいな」
 それがどうしてか。広瀬は言った。
「関西では豚骨の方が少ないからな」
「薄口醤油でトリガラね」
「間違っても豚の首をそのまま使いはしない」
「長浜ラーメンね」
 九州の長浜のラーメンはそこからダシを取るのだ。豚の脳味噌が非常にいいダシを出すらしい。ただし日本においてはマイナーなダシではある。 
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