久遠の神話
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第二十三話 七人目の影その一
久遠の神話
第二十三話 七人目の影
広瀬は工藤、高橋を校舎の屋上に案内した。そこはベンチと屋上から人が出ない様にガードになっているフェンスがある他は何もない。あるのは風景だけだった。
他の校舎や校庭等学園全体が見える。そして果てしない青空が見えた。
その青空、雲一つないその下にいてだ。工藤は広瀬と対峙したまま言う。
「空はいい」
「海ではなくですか」
「海が第一だが空もいい」
広瀬の問いにこう返した。その横には高橋がいる。
「青自体がいい」
「青ですか」
「空と海がある」
広瀬は海は今は見ていないがそれでもだった。
空だけでなくそれも感じながらだ。そのうえで言うのだった。
「そしてその二つのうちどちらかを見るだけで俺は幸せになれる。そしてだ」
「そして、ですか」
「それが同じだという人もいる」
全員とは言わなかった。そう思わない人間もいると考えての言葉だ。
「俺はその人の為に戦っている」
「自衛官としてですね」
「この戦いで世界征服なり殺戮なりを望む者がいるかも知れない」
「それを防ぐ為に貴方はですか」
「剣士として戦い。そしてだ」
そのうえでだというのだ。
「俺はこの無益な戦いの終焉を望む」
「それは俺もだよ」
工藤の横にいる高橋もだ。同じことを工藤に述べてきた。
「俺も戦いを止めさせて人々を守る為に」
「高橋さんもまた」
「俺も戦うんだよ」
こう言うのだった。
「こんなことでね。市民を害されたりしたら面倒だからね」
「俺はそんなつもりはないですけれどね」
広瀬は殺戮にも支配にも興味はなかった。これは紛れもない事実だった。
「目的は自分と」
「自分と?」
「もう一人の為です」
こう言うのだった。
「その為に戦いますから」
「何か知らないがそれが君の戦う目的なんだね」
「はい、そうです」
その通りだとだ。高橋にも答える広瀬だった。
「ですから俺が生き残っても世界はどうにもなりませんよ。他の人も」
「君は悪人ではないか」
「悪人かどうかはともかく」
「そうしたことは考えていない」
「興味はないです」
こう答えるのだった。二人に対して。
「俺が興味があるのは別のことですから」
「そうか。その為にか」
「今も俺達と戦うか」
「気障でもないですから許してくれとも言いません」
戦い倒しても。そうだというのだ。
「御互い様ですしね」
「戦い倒すことはか」
「そう考えるからこそ」
「そういうことです。じゃあはじめましょう」
広瀬はその左手を一振りした。そうしてだ。
己のその六本の牙がある剣を出した。それを見てだ。
高橋はだ。彼を見据えながら工藤にこう言った。
「じゃあここは」
「君がいくか」
「はい、そうしていいですか?」
「わかった。それではな」
「はい、俺がやらせてもらいます」
こうしてだ。彼も己の剣を出した。そのうえでだ。
広瀬と対峙してだ。そしてすぐにだった。
その波状の剣を左から右に振った。そうしてだ。
己と広瀬の周りに無数の木の葉を出した。その木の葉達を見てだ。
広瀬は落ち着いた声でだ。こう言うのだった。
「あの時の木の葉とはですね」
「同じだと思うかい?」
「一度破られた技を再び同じ相手に出す」
それはどうかというのだ。
「即ち自殺行為ですね」
「じゃあ同じとは思わないね」
「見たところ」
広瀬は左手、剣を持っているその手をだ。スナップを効かした。するとだ。
その身体の周りを雷が覆った。それで木の葉から守る。そしてだ。
こうだ。高橋に言ったのである。
「このバリアーもですね」
「雷を下手に受ければそれで燃えるからね」
「しかしこの木の葉達は」
話をしている傍からだ。木の葉達は広瀬を覆うその雷に触れる。しかしだ。
どれも何も起こらない。これまでは雷に焦がされ消え去っていた。だが今はどの木の葉もだった。
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