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久遠の神話

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第二十二話 広瀬の礼儀その十二


「私はキリスト教徒ではありません」
「しかし無神論者でもないな」
「勿論です。ですから神を話に出せます」
「そうだな。では君の宗教はどういったものなのかな」
「そのことが気になりますか」
「仏教徒なのかな」
 広瀬は聡美の名前が日系のものであることからこうも考えた。
「まさかとは思うが」
「仏教についても知っていますがそれもまたです」
「違う」
「はい、仏教徒でもありません」
 また言う聡美だった。またしても否定の言葉だった。
「そのことも御了承下さい」
「わからないことだらけだな、君も何か」
「そう思われますか」
「それに最初から剣士の戦いのことも知っている」
 広瀬は次にだ。このことについても述べた。
「君は何者なのかな、本当に」
「私は」
「少なくとも只のギリシアからの留学生じゃない」
 広瀬はそのことは何となく察したのだった。そうしてだった。
 聡美の顔を見た。そうして言ったのだった。
「日本人とギリシア人のハーフ」
「その通りです」
「その割には日本人の血が薄いんじゃないかな」
 ハーフだというのにだ。日本人の要素がないというのだ。
 見ればその通りだった。その金髪の緑の目、それに白い肌。
 そしてすらりとした長身。どれもだった。
「日本人のものじゃないな」
「ですがそれでもです」
「ハーフと言うのかな」
「その通りです。私は」
「少なくとも日本語は堪能だな」 
 それに名前もだ。それは間違いなく日本人のものだ。
 しかし聡美のそのいささか中性的な美貌、少年のものも含まれたそれを見てだ。
 広瀬はどうしてもだ。こう言わざるを得なかった。
「古代ギリシア人にも似ているかな」
「古代の」
「ギリシア彫刻みたいな顔立ちをしている」
 聡美の横顔を見ながらだ。広瀬はいぶかしむ顔になっていた。
 そしてそれと共にだ。彼はこの歴史的事実も述べた。
「しかし古代ギリシア人は長い混血の結果消え去ったと聞いている」
「よく御存知ですね」
「歴史で勉強したからな。民族は混血により変わるし形成もされる」
 他ならぬ日本人の多数派である大和民族にしても縄文系と弥生系の混血である。そこに大陸から渡ってきた者や南方からの血も入っているのだ。
 そのことからだ。広瀬は言ったのである。
「しかし君は当時のギリシア人に近いかな」
「今のギリシア人ではなく」
「そうした風に見えるけれどどうかな」
「いえ、それは」
「気のせいだというのかな」
「そう思います。私は今のギリシア人ですから」
「君がそう言うのならいい。そもそも」
 どうかというのだ。その聡美の外見のこともだ。
「俺が気になったのは君の知識だ」
「それですか」
「確かに外見も気になる」
 非常に古代ギリシア的なだ。それはだというのだ。
「しかしそれでもだ」
「私の知識ですか。戦いに関する」
「文献とはどういったものなのかな」
 聡美がいつもその知識の根拠にしているだ。その文献に関することだった。
「それは君が今持っているものなのかな」
「いえ、ギリシアで見ただけで」
「今は持っていない」
「日本にはです」
 持って来ていないというのだ。 
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