久遠の神話
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第二十二話 広瀬の礼儀その二
「美味いか?日本の味」
「はい、優しい味ですね」
それは気に入ったというのだ。聡美は微笑んで答える。
だがそれと同時にだ。彼女はこんなことも言ったのだった。
「ですが」
「ですが?」
「一つ困ったことがあります」
こうだ。曇った顔で述べたのである。
「量が少ないですね。日本のお料理は」
「みたいだな。外国の人よくそう言うんだよ」
「八条町や大阪はそうではないですが」
「それでもか」
「はい、少ないです」
こう言う聡美だった。
「それが気になりますね」
「日本人って基本的に少食なんだよな」
「その様ですね」
「俺は違うけれどな」
見れば中田が手にしている飯は巨大な丼に大盛りだ。しかもだ。
付け合せのサラダも山盛りだ。カキフライの数も多い。
その優に三人分か四人分がある定食を食べながらだ。彼は言うのだった。
「というかこの町じゃな」
「量が多いみたいですね。日本の中では」
「ギリシアはこんな感じかい?」
「むしろギリシアより多い感じかと」
そこまでだとだ。聡美は答えた。
「この町のお料理は」
「だろうな。俺もそう思うよ」
「量が多いのはいいことですね」
「そうそう。やっぱり食い物ってな」
「多く食べてこそ」
「そうだよ。さもないと身がもたないしな」
「中田さんは特にそうですね」
その彼にだ。言う聡美だった。
「剣道をやっておられますし。それに」
「ああ、剣士でもあるしな」
「身体を動かされているからこそ」
それ故にだった。まさにだ。
「多く食べられないと」
「駄目なんだよな。ただな」
「ただ?」
「剣道自体はあまりカロリーを消費しないんだよ」
「そうなのですか」
「運動量自体は水泳とかと比べると全然少ないんだよ」
こうだ。剣道の運動量について話すのだった。
だがそれでもだとだ。中田は食べながら笑って聡美に話す。
「それでも走ったり筋トレもするしな」
「だからですね」
「そっちでもカロリー使うし防具着けるから」
「防具、つまり鎧ですね」
「それ着けるから結構しんどいな」
笑って剣道独特の防具のことも話した彼だった。
「剣道ってのもそうなんだよ」
「そうですか。剣道もそういうことが重なって」
「痩せるな。それにな」
「それに?」
「やっぱり戦いだよな。それだよ」
彼が最も言うのはだ。剣士としての戦いのことだった。
このことについてだ。彼は言うのだった。
「生きるか死ぬかだからな」
「怪物相手にしてもですね」
「ああ、だからな」
「それに力を使うからこそ」
「食って栄養を補給しないとな」
それでだ。食べるというのだ。
そのことを話してからだった。彼はだ。
あらためてだ。聡美に話したのだった。
「ところであんた甘いものはどうかな」
「デザートですか」
「ああ、スイーツな」
今風の呼び方をだ。中田は笑って言ってみせた。
そしてそのうえでだ。彼は聡美に尋ねたのである。
「それはどうかな」
「甘いものも大好きです」
聡美は器用に箸を使いだ。
そのうえで今度はサラダのレタスとキャベツ。細かく刻まれているそれを食べながらだ。
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