戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十八話 墨俣での合戦その八
そうしてだ。実際にだった。
織田の足軽達はその長槍で上から下にだ。斉藤の者達を叩く。斉藤の者達も今度も反撃しようとするが。
それでもだ。やはり槍の長さが違った。それで。
自分達の槍が届く前にだ。彼等は倒れていくのだった。そうした者が続き。
斉藤の軍は進めなくなった。その時にだ。
柴田の軍と戦う彼等の後ろからだ。青い軍勢がまた出て来たのだ。
その彼等の多くは馬に乗っている。その騎馬の兵達はだ。
動きを止めてしまった斉藤の兵達をだ。後ろから攻めるのだった。
「よし、攻めるぞ!」
「敵の後ろを衝け!」
そしてだ。その中には。
前田もいた。陣羽織を着ていないが間違いなくそれは彼だった。その彼がだ。
槍を手に斉藤の軍に向かう。その彼にだ。
慶次が横に来てだ。そうして言ってきた。
「叔父御、このまま突っ込まれますか」
「何じゃ。御主か」
「はい、わしもこれからです」
「ふん、御主の助けはいらんわ」
それはいいと言ってだ。前田は。
そのうえでだ。一直線に進みだ。
軍勢の先頭を切りだ。槍を繰り出し。
敵兵をまず一人槍で倒す。そうしてまた一人倒す。
そのまま敵陣に雪崩れこみ槍を縦横無尽に振り回す。それはまさに鬼神の如きであった。
その彼に続いてだ。慶次もまた。
己の槍で敵を次々に薙ぎ倒す。その彼等を見て。
斉藤の者達は前の柴田の軍勢も見てだ。慌てふためいた。
「前後から挟み撃ちというのか」
「それにしても何じゃこの強さは」
「あの二人の槍の者達は何じゃ」
「あれは鬼か」
前田と慶次をだ。こうまで言うのだった。
既に前の柴田の軍勢の槍にはかなりやられている。そして後ろから来る騎馬の兵達にもだ。
蹂躙されようとしている。斉藤の軍は次第に追い詰められていているのだ。
だがその中でだ。一騎奮戦する者がいた。
厳しい髭だらけの顔の男がだ。織田家の前で槍を振るっている。その彼が叫ぶ。
「まだだ!怯むな!」
「おお、足立殿!」
「陣頭に立たれますか!」
「そうよ、わしがおる限りじゃ!」
どうかとだ。この足立という男が斉藤の者達に叫ぶ。
「負けはせぬ、ここは耐えよ!」
「は、はい!」
「では!」
彼の奮戦と叱咤を受けてだ。斉藤の兵達は何とか踏みとどまろうとする。
それは全軍に及びだ。織田の前後からの猛攻を凌ぎだした。それを見てだ。
丹羽がだ。こう言うのだった。
「いかん、このままではじゃ」
「はい、先陣が攻めあぐねています」
「これでは」
「すぐに権六殿達に助太刀に向かう」
そうするとだ。丹羽は言ってだ。兵を急がせだした。
佐久間も同じだった。彼等はすぐに柴田の援軍に向かう。しかし。
それを見てだ。柴田が苦い顔で言った。
「いかん」
「そうですな。五郎左殿や牛助殿に余計な気遣いをさせています」
「わしは他人に気遣われるのは好かん」
こうだ。佐々に対して言うのである。
「然らばじゃ」
「我等でできるだけ」
「決着をつける。よいな」
「承知、では」
「わしも前に出る」
柴田自らだ。前に出てだというのだ。
斉藤の軍をやぶろうとする。彼はそうして戦局を一気に決めようとしていた。
そしてだ。その中でだ。
前田がだ。その荒れ狂う足立を見て言った。
「御主は何じゃ!」
「わしか。わしは首取り足立じゃ」
こうだ。男は名乗ったのである。
ページ上へ戻る