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戦国異伝

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第五十八話 墨俣での合戦その一


                第五十八話  墨俣での合戦
 信長は清洲を発ちそのうえでだ。
 三万を超える大軍を率いて美濃に向かう。その青い大軍を見てだ。
 川尻がだ。思わずこう言った。
「凄いものよ。これだけの大軍を見ることになるとは」
「ははは、これで終わりではないぞ」
 信長はその彼にだ。笑いながら言うのだった。
「むしろこれからじゃ」
「この三万の兵をですか
「五万を超えるものとする」
 つまりだ。美濃を手に入れその兵達も組み入れるというのだ。
「そうするぞ」
「五万、ですか」
「そしてその五万でさらに道を開く」
 そこで満足することはないというのだ。
「よいな。そうするぞ」
「さすればそれがしもまた」
「共に来るのじゃ」
 上機嫌で話しながらだ。そうしてだった。
 彼等は進軍に入る。その中でだ。
 木下秀長がだ。兄に問うた。彼等も馬上にいてだ。青い鎧に青い鞍である。ただし将になっている彼等はもう陣羽織を着ている。
 その彼がだ。兄に問うのである。
「兄上、宜しいでしょうか」
「何じゃ?」
「又左殿ですが」
 そのだ。彼のことを問うたのである。
「先陣に入られました」
「馬に乗られてじゃな」
「具足こそ青ですが」
 しかしだ。それでもだというのだ。
「ですがやはり一介の浪人としてです」
「馳せ参じたということじゃな」
「はい、そうされています」
「凄いものが見られるのう」
 ここでだ。木下は笑いだ。
 そのうえでだ。弟にこう言ったのである。
「又左殿の大暴れじゃ」
「それがですか」
「うむ、見られる」
 まさにそれがだというのだ。
「凄いことになるぞ」
「あの、ですが」
 秀長は兄の期待する言葉とは対象的にだ。暗い顔になりだ。
 そのうえでだ。こう問い返したのだった。
「斉藤も流石にかなりの豪の者を出してくるでしょうし」
「下手をすれば又左殿はか」
「そうです。危ういのでは」
「安心せよ。幾ら敵から豪傑が出てもじゃ」
 そうなってもだというのだ。木下は言う。
「今の又左殿には勝てぬわ」
「槍の又左殿にはですか」
「そうじゃ。勝てぬ」 
 あくまでこう言う木下だった。
「斉藤の者ではな」
「そうであればいいですが」
「墨俣での戦は織田が勝つ」
 木下は今度は戦そのものについて述べた。
「数が違うしのう」
「それに鉄砲もありますし」
「しかも権六殿や牛助殿が出ておられる」
 織田家きっての戦上手の彼等もだというのだ。
「それに久助殿もおられるしな」
「母衣衆の方々もまた、ですな」
「人も揃っておる。負ける筈はない」
 戦そのものについてはだ。そうだというのだ。
「決してな。しかしじゃ」
「しかしですか」
「問題はそれからじゃ」 
 ここでだ。木下の目が光る。そのうえでだ。 
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