| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十七話 前田の怒りその四


「御主の力はその頭とそれに」
「それに?」
「人たらしじゃ」
「人たらしでございますか」
「まず言おう」
 前置きしてだ。森は言った。
「確かに御主は小さいし猿そっくりじゃ」
「ですから困っています」
「しかしそれでもじゃ。御主を見ているとどうもじゃ」
「何かありますか」
「惹かれるものがあるのじゃ」
「それがしに惹かれますか」
「そうじゃ。殿の場合はお傍にいて共にあらゆることを為したいと思う」
 それが信長の魅力なのだ。彼はその日輪の如き魅力で多くの者を惹き付け離さない。それは森も同じであるし木下もなのだ。
 だが木下にもだ。魅力はあると森は言うのである。
「しかし御主の場合はじゃ」
「どうでしょうか、それがしは」
「何かこう力になりたいと思わせる。それに」
「それにですか」
「御主の話し方が実によい」
 木下のそれがだというのだ。
「それで共にいたいとも思うのじゃ」
「それがそれがしの人たらしでございますか」
「殿は日輪で御主は天下無双の人たらしじゃ」
「天下無双ですか」
「頭とその人たらしがある」
 まさにだ。その二つがあればだというのだ。
「必ずや。多くのものを果たすぞ」
「そうであればいいのですが」
「現にじゃ。今御主は侍大将じゃ」
 かなりの身分であることは言うまでもない。流石に平手や柴田程ではないにしろだ。
「一介の百姓からそうなったではないか」
「運がよかったのです」
「御主は運もいいがな」
 木下にはそれもあった。運もだ。
 だがそれだけではなくだ。やはりその二つがあるというのだ。
 それでだ。まただった。森は木下に述べていく。
「その二つがある。武芸よりも遥かに凄いものがな」
「ではその二つを使い」
「果たせ。よいな」
「わかりました」
 木下も頷く。その後でだ。
 森は今の本来の話であるだ。前田の話を再開させた。その話は。
「わしの予想じゃが叉左はじゃ」
「動かれますか」
「あの茶坊主は斬られる」
 そうなるというのだ。前田によってだ。
「権六殿もわかっておられるであろうな」
「しかし権六殿は叉左殿を止められましたが」
「わかっていて止められたのじゃ」
「そうされたのですか」
「権六殿は豪快な様で心配りも出来る」
 一見武骨なだけに見えるがそれだけではないのだ。その中に繊細なものもある。人に対する気遣いにおいても中々のものなのだ。
 それでだ。あえてそうしたというのだ。
「わかっていてそれでも忠告されたのだ」
「あえてとは」
「あの茶坊主は所詮小者。小悪党じゃ」
「そうした悪党を斬るのは」
「確かに褒められたことではない。しかしじゃ」
「しかし?」
「叉左はその小悪党を斬り捨てることで多くのものを得る」
 そうなるというのだ。前田はだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧