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久遠の神話

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第二十話 ハヤシライスその十


「心なんだよ」
「心で?」
「そうだ、心でおばさんになるんだ」
 そういうものだというのだ。
「例えばいるだろ。御前の友達でもな」
「おばさん臭い娘とか?」
「そうだ、いるだろ」
「まあ言われてみればね」
 実際にいた。そういう娘が知り合いにだ。
「いるわ」
「そうだろ。いるだろ」
「何ていうか妙におばさん臭いのよ、その娘って」
「そういうことだ。おばさんには心でなるんだ」
「ううん、じゃあ私もなのね」
「十七でもおばさんになる」
 父は娘に対してこう断言した。
「そうなるからな」
「おばさんにねえ」
「決して悪いことじゃないがな。おばさんになるのもな」
 かといってだというのだ。おばさんになることは決して悪いことではないというのだ。
「ただ。それでもな」
「そうなりたくないのならなのね」
「そうだ。若い心でいたいのならだ」
「そういうおばさんみたいなことはなのね」
「言うのもやるのもよくない」
「そういうものなのね」
 樹里が父に言われて考える顔になるとだ。実際にだ。
 弟がだ。姉に言ってきた。
「例えば姉ちゃんさ」
「何よ」
「手に輪ゴムとかよくするじゃない」
「ああ、あれね」
「それ完全におばさんだから」
 それそのものだとだ。弟は指摘してきた。
「もうその動作だから」
「そうなのね」
「そうだよ。もう前兆があるから」
「ううん、何時かはなっても」
 おばさんになってもだとだ。樹里は難しい顔で言う。
「十七で流石にそれはね」
「白髪になるのも禿げるのも何時かはなる」
 父は男に例えてきた。
「しかしそれはだ」
「十七とかじゃなのね」
「十七で禿げたいものか」 
 父の言葉は今度は忌々しげなものだった。その口調でだ。 
 我が子を見てだ。そうして彼に問うたのである。
「どうだ。十七でそれは」
「絶対に御免だよ」
 これ以上はなく嫌そうな顔で答える彼だった。父に対して。
「白髪は仕方ないにしても禿げるのは幾つでも御免だよ」
「そうだな。それはな」
「禿げるのって悪夢だよ」
 そこまで至るものだというのだ。
「人によっては二十代の前半でくるみたいだけれどさ」
「実際にくるぞ」
 父は息子に残酷な現実を話す。
「人によってはな」
「そんなの御免だから」
 また言う彼だった。
「俺死ぬまで禿げたくはないから」
「そういうだな。それでだ」
 ここまで話してからだ。父はあらためてだ。
 娘に顔を向けてだ。そしてまた言ったのだった。
「おばさんとは何かわかったな」
「よくね。そういうことなのね」
「その通りだ。おばさんになるのは先でいい」
「三十を過ぎる位でいいわね」
「禿はしないからな」
 ここでも禿について言う彼だった。そしてだ。 
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