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戦国異伝

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第五十六話 竹中の意地その四


「とはいってもわしは兄上程の智恵も学識もありませんが」
「いや、そういうものではない」
「そういうものではないとは」
「御主には御主のできることがある」
「それは一体」
「織田殿のところに行けばわかる」 
 それはだ。そこでわかるというのだ。
「だからじゃ」
「そのことについて負い目を感じることはないと」
「御主ができてわしにできぬことも多い」
 それもあるというのだ。
「だからじゃ」
「わしのままで織田殿でお仕えすればいいですか」
「また機会があれば共に働こうぞ」
「はい、それでは」
 こうした話をしたうえでだ。兄弟は。
 それから数日後にだ。龍興にだ。
 城をだ。返すと告げたのだった。
 その使者の言葉を聞いてだ。寺にいる龍興はだ。
 拍子抜けした顔になってだ。こうその使者に問うた。
「まことか!?」
「は、はい」
 その通りだとだ。使者も驚きながら答えた。
「その通りです」
「訳がわからぬ」
 呆然としたままだ。龍興は。
 こう言ってだ。それからだ。
 周りにいる者達にだ。その呆然とした顔で問うた。
「どう思うか」
「それがしもわかりませぬ」
「とてもです」
「訳がわかりませぬ」
「どういうことか」
 彼等もだ。呆気に取られた顔になってだ。
 そのうえでだ。こう主に言った。答えられはしなかった。
「罠では?」
「竹中めの罠ではないですか?」
「そうではないでしょうか」
「あ奴の」
「そうじゃな。おかし過ぎる」
 そうだとだ。龍興も言う。誰もがだ。
 この流れには訳がわからなかった。それでだ。
 遂にだ。こう結論を出したのだった。
「罠じゃな」
「はい、罠です」
「間違いありませぬ」
「どう考えても」
 これがだ。彼等の出した結論だった。
 それを聞いてだ。竹中はというとだ。
 それならばだとだ。
 城を出てしまった。この時もだ。
 律儀に龍興に使者を送ってだ。そのうえで城を去ったのだった。
 しかしその時もだ。龍興も周りの者達もだ。
 誰一人として信じなかった。使者の言うことをだ。
 それでだ。また言うのだった。まずは家臣達がだ。
「やはり罠でしょう」
「あの者は小知恵が回ります」
「ですから。城の中に罠でも仕掛けておるかです」
「碌なことをしていないでしょう」
「そうじゃろうな。わしをここまでたばかってくれたのじゃ」
 龍興は難しい顔で述べる。
「それならばじゃな」
「左様です。まずは城の気配を探ってです」
「そうして慎重に城の門を開けです」
「兵は既に集めております」
「その兵で」
 こうした話をしてだった。彼等は。
 兵で城を何重にも囲みそれからだ。慎重にだ。
 門に近付く。しかしだ。気配はなかった。それを見てだ。
 門に近付いた足軽達もだ。首を捻ってそれぞれ述べた。 
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