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戦国異伝

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第五十六話 竹中の意地その三


「足掛かりが必要となる」
「ではその足掛かりを織田殿が得られれば」
「破れる」
 そうなるというのだ。斉藤は。
「間違いなくな」
「そうなりますか」
「墨俣がそうなるだろう」
 その場所が何処かもだ。竹中は話した。
「あの場所を手に入れ」
「そうですな。あそこに砦を築けば」
「それで完全に決まる」
「ですがそれは」
 どうかというのだ。このことについて彦作は言った。彼も竹中の弟でありだ。人並以上の知略はあるのだ。それがあるからこそだ。
 彼もだ。こう答えられたのだった。
「容易ではありません」
「あの地は稲葉山の城の喉元にあるな」
「はい、ですから砦を築ければ大きいですが」
「しかし喉元にある」
 このことが大きかった。実にだ。
「だからこそじゃ」
「兵もすぐに出せますな」
 稲葉山の城からだ。そうなるというのだ。言うならばその墨俣を押さえてもそこに砦を築く、即ち斉藤氏を倒すことはなのだ。
 容易ではない。これが竹中と彦作の見た手だった。
 それでだ。また言う二人だった。
「ではあの城を手に入れるのは」
「織田殿とても容易ではない」
「美濃もまた」
「普通に考えれな」
「普通にはですか」
「この城は普通に攻めるとなると」
 どうなるかだ。その場合はだ。
「何万も兵を集め囲んだうえで攻めねばならん」
「さもなければ容易には陥ちませぬな」
「わしのやり方は二度はできん」
 それもだ。できないというのだ。
「とてもじゃ」
「そうですな。奇策というのは一度やれば二度目は警戒されます」
「続けてやってもまず成功せん」
 相手も警戒するからだ。相手も相当な愚か者でない限り警戒するからだ。何もしないでいる人間もそうそういはしないのである。
 だからこそだった。この奇策は二度はできないというのだ。
「それはできん」
「では織田殿はどうして」
「確かにこの奇策は二度は使えはしない」
 それは無理だと。再び言ったうえでだ。
 竹中はだ。弟にだ。思わせぶりな笑みを浮かべて述べた。
「しかし策は一つではない」
「一つではですな」
「そうじゃ。色々とある」
「兵法は一つではない故に」
「この城を攻め込むやり方も色々じゃ」
「では織田殿のやり方を見せてもらいましょう」
 彦作はこう述べてだった。そのうえでだ。
 あらためてだ。彼はこうもだ。兄に話した。
「それでわしは」
「どうするのじゃ?御主は」
「どちらにしろこの美濃にはおられませぬ」
 主への叛意、少なくともかなりの反感を抱いていることは公にしてしまった。それならばだ。この美濃にはいられなかった。
 だからこそだ。彼はどうするかというのだ。
「ですから」
「わしは隠遁するがな」
「その若さで」
「またわしが必要とされればじゃ」
 その時にはだというのだ。
「しかしそれまではじゃ」
「そうされますか」
「うむ。では御主は」
「織田殿の下に向かいます」
 そうするというのだった。彼はだ。
 だが、だ。それと共にだ。首を回しつついささか自嘲する笑みになってこうも述べた。 
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