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戦国異伝

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第五十五話 美濃の神童その五


「人の話はあてになりませぬな」
「全く。切れ者と言われていますが」
「これでは。どうやら」
「大したことはありませんな」
「わしは最初からわかっておった」
 龍興は実に面白そうに言う。
「あの者はじゃ」
「愚かだと」
「そうとですな」
「そうじゃ。何じゃあのおなごの様な顔は」
 顔もだ。けなすのだった。
「武士らしくないわ」
「ですな。まるでおなごです」
「祖父殿もわからん」
 竹中を見出しただ。道三についても言及されていく。
「あの様な者といい頑固なだけの美濃四人衆といい」
「ああした者達を重用しておられましたから」
「それにです」
「あの明智という者」
 やがてだ。もう一人名前が出て来た。
「明智光秀でしたか」
「あの妙に細かく雅ぶった者もでしたな」
「随分と買っておられましたが」
「あの者にしても何処がよかったのやら」
「わかりませぬな」
「うむ、わからん」
 実際にそうだと言い切る龍興だった。そんなことを話してだ。
 竹中に対して何の警戒も抱いていなかった。そうしてだ。
 竹中が城に入ることを許した。稲葉山の警護は至って緩いものだった。それはだ。
 離れた場所から見ている四人衆にしてもだ。こう言う程だった。
「あれで一気に迫られればのう」
「僅かな兵であの警護では」
「陥ちかねんが」
「龍興殿はわかっておられん」
「流石に十六人で陥とせるとは思わぬがな」
 竹中のこの策についてはだ。よしとはしていてもだ。
 それでもまさか成功するとは思っていない。だが今の稲葉山城、そして美濃自体はだ。
 どうかということもだ。彼等はよくわかっていた。
「織田殿が来たら終わりじゃな」
「その時でな」
「間違いなくな」
 こうだ。彼等は見ていたのだった。そうしてだ。
 竹中の動きも見守る。その彼はだ。
 龍興の許しを得て僅かな者達を連れてだ。城に来たのだ。
 城の正門に来るとだ。すぐにだ。
 気の抜けた顔の足軽にだ。こう声をかけたのだった、
「よいか」
「これは竹中様」
 足軽は今起きた様な顔で竹中の言葉に応えてきた。陣笠の被り方も具足の付け方もだ。ただ着ている様な感じでしかない。
 槍もただ持っているだけだ。その足軽が応えてきたのだった。
「来られましたか」
「話は聞いているな」
「はい」
 それはその通りだとだ。足軽はまた応えた。
「ではどうぞ」
「うむ。それで彦作はどうしておる」
「寝ておられます」
 足軽は彼にこのことについても答えた。
「ゆうるりと」
「ならよい。それでは入るぞ」
 こう話をしてだった。竹中はその僅かな者達と共に入る。その時に何かと色々とものをだ。大きな箱に幾つも入れてきていた。
 それを見てだ。足軽は竹中に問うた。
「また随分多くありますな」
「全てあれへの見舞い品よ」
「弟様へのですか」
「酒じゃ」
 それを入れているというのだ。
「酒を入れておるのじゃ」
「左様ですか。酒をですか」
「後でそなた等にも振る舞う」
 涼しげな笑みを浮かべてである。竹中はその門番の足軽に話す。
「楽しみにしておれ」
「いや、申し訳ありませぬなあ」
 酒が振る舞われると言われてだ。足軽はだ。 
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