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戦国異伝

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第五十四話 半蔵の選択その九


「茶も。剣や弓と同じくな」
「ではそれがしは今から」
「その道に入る」
「茶の道に」
「左様じゃ。ではどうじゃ」
「面白そうでございますな」
 ここまで聞いてだった。蜂須賀は。
 彼独特の豪快ながら妙に愛嬌のある笑みになってだ。こう信長に話した。
「ではお供させてもらいます」
「他の者達にもそうしておる」
「では猿にも」
「無論じゃ。あれは茶はまだまだわかってはおらんが」
 この辺りは仕方がなかった。何しろ木下はずっと茶やそうしたものとは全く縁のない暮らしだったからだ。それも当然であった。
 そのことも話してだった。信長はさらに話す。
「しかしそれでもじゃ」
「茶の席に呼んでおられますか、猿も」
「そうしておる。もっともあ奴は茶よりも菓子や果物の方に目がいっておるわ」
「とりわけ柿でしょうか」
「そうじゃな。わしも柿は好きじゃが」
 この辺りは酒が飲めず甘いものを愛する信長らしかった。
「あの猿もまたじゃ」
「ははは、猿は柿が好きでござるから」
「茶よりもそちらに目がいっておるわ」
「そうでしょうな」
「しかしそれでもよい」
 いいとだ。信長はそんな木下の態度もいいというのだ。
 そしてだ。こんなこともだ。蜂須賀に話した。
「あ奴は頭がよいからのう」
「では茶も」
「覚えてきておるわ」
 そうだというのだ。茶についてもだ。木下の頭の回転の早さや記憶力のよさが生きているというのだ。
「それも速いわ」
「左様ですか」
「そして融通も利く」
 ここがまさに木下だった。
「独特じゃが面白い茶をしよるわ」
「それぞれに茶があり申すか」
「あるのう。ではこれよりじゃ」
「はい、今より」
 双方の態度があらたまる。そうしてだった。
 信長はだ。そのあらたまった態度でだ。蜂須賀に告げた。 
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