久遠の神話
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第十八話 教師その九
「私のところに来て下さい」
「そうすればいいんですか」
「私は教師です」
やはりこのことをだ。高代は言うのだった。
「ですからそうして下さい」
「わかりました。それじゃあその時は」
「そういうことで。では」
「それではですね」
「今はお別れしましょう」
高代は穏やかな声で上城に告げた。
「そしてまた、です」
「わかりました。それじゃあ」
「剣士のことについても知っていることならです」
教師の仕事に関することではない。しかしだ。
高代はこのことについてもだ。教師らしい態度で上城に述べてきたのであった。
「教えさせてもらいますので」
「その場合もですか」
「はい、ですが君が戦うのならです」
その場合についても言う彼だった。
「私も受けて立ちますので」
「僕が戦うのなら」
「私の夢の為に」
純粋だが燃えている、そうした目での言葉だった。
「そうさせてもらいます」
「夢ですか」
「人は夢によって生きている存在です」
「じゃあ夢がないと」
「生きられますがその人生は味気のないものになります」
これもまた教育的な話だった。教師としての話である。
「だからこそです」
「夢を持つべきですか」
「上城君の夢、この戦いに関しては何でしょうか」
「戦いを止めさせたいです」
そうしたいとだ。上城はこのことは切実に話したのだった。
「どうしてもです」
「そうですか。この戦いをですか」
「できれば終わらせたいです」
完全にだとも話すのだった。神話の頃から続いているそれを。
「この戦いに何の意味もないと思いますので」
「成程。では戦いを終わらせる為にはです」
「その為にはですか」
「戦われるのですね」
少し聞いただけでは逆説的な話だった。しかしだ。
高代は微笑みだ。こう彼に言ったのだった。
その言葉を聞いてだ。上城は最初は目をしばたかせた。そうしてだ。
そのうえでだ。少し呆然となり高代に問い返したのである。
「あの。それは一体」
「武という字はどう書くかです」
「武、ですか」
「矛を収めるですね」
形がそのままの矛をだ。止めるということである。
「そう書きますね」
「はい、その通りです」
「では矛を止めるのは何か」
まさにだ。その武は何かというのだ。
「言葉では止まらない場合が多々あります」
「しかしそれを止める為にはですか」
「同じ矛を出すしかないのです」
そうした場合にはだというのである。
「だからです。戦いを止める、若しくは終わらせる為にはです」
「戦うしかないんですか」
「そういうことです。おわかり頂けたでしょうか」
「いえ」
戸惑った顔にまま高代に答える上城だった。
その彼の顔と言葉を受けてだ。高代はというと。
今はあまり何も言わずにだ。静かにだ。
微笑みだ。こう告げるだけであった。
「今は頭の中に入れているだけでもいいです」
「戦いを止める為には戦うということをですか」
「はい、それでもいいのです」
その微笑み、優しいそれでの言葉だった。
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