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戦国異伝

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第五十四話 半蔵の選択その五


 このこともすぐに各国に伝わった。まずはだ。
 風魔を擁する北条氏康が小田原で言うのだった。
「徳川もまずは一歩じゃな」
「一歩ですか」
「忍の者を手に入れたことが」
「左様、一歩じゃ」
 まさにそれだとだ。家臣達に話すのである。
「大名として一歩を踏み出したところじゃ」
「ううむ、土地と兵だけではなくですか」
「手前の忍の者達も持ってこそ」
「それでこその戦国大名なのですか」
「大名といっても大小色々よ」
 氏康は今度はその大名について話す。無論彼もその大名でありそのことも自覚してそのうえでだ。己の家臣達に話をするのである。
「小さいのもあれば大きいのもあるな」
「そして我が北条はですな」
「大きいと」
「そう仰いますか」
「その大きな大名になるにはじゃ」
 まさにだ。氏康が話す要点はそこにあった。
「土地や兵だけでなくじゃ」
「手前の忍もですか」
「必要というのですか」
「各国の情報を手に入れるだけでなく」
 それに留まらないというのだ。忍の役割は。
「敵の城や家臣を壊したり始末するのもじゃな」
「時には敵の大名の寝首を掻く」
「それもありますな」
「そうじゃ。様々な」 
 実に多くの役目がだ。忍にあるというのだ。
「その方等もそのことはわかっておろう」
「はい、確かに」
「そのことは」
 彼等もだ。今の氏康の言葉にだ。 
 即座に頷きだ。こう答えるのだった。
「あの風魔の者達あらばこそです」
「北条は情報を仕入れることができ」
「敵の城や家臣を壊し消してきました」
「そのうえで戦を進めてきました」
「表だけではないのじゃ」
 今度はこんなことを言う氏康だった。
「裏もあるな。銭に表と裏がある様に」
「では我等は表で」
「あの者達は裏ですか」
「そうじゃ。全てのものに表と裏がある」
 そうだというのだ。ひいてはだ。
「だからこそじゃ。大名が大きくなり確かな力を得るにはじゃ」
「忍もまた必要」
「さすれば」
「そういうことじゃ。現に武田に上杉がそうじゃ」
 まずはだ。北条と時には結び時には競り合う彼等のことが挙げられる。
「して西の三好や毛利もじゃな」
「三好はあの松永がそうですな」
「忍を巧みに操りますな」
「そしてじゃ」
 氏康の言葉に妙に力が入った。そのうえでだ。
 彼はだ。この家の名前も挙げたのだった。
「織田もじゃ」
「あの織田ですか」
「今急激に勢力を伸ばしている」
「あの家もですか」
「尾張の土俗の忍に」 
 蜂須賀のことであるのは言うまでもない。そしてさらにだった。
「後甲賀からも来ておったな」
「確か、滝川ですか」
「そういった名前ですか」
「織田家において瞬く間に頭角を現わし」
 信長は才ある者は新参であろうとも身分が低かろうとも重く用いる。だから滝川もだ。瞬く間に織田家においてそうなったというのだ。 
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