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戦国異伝

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第五十三話 徳川との盟約その十一


「あまり面白くはないか」
「確かに。この国にいてもな」
「山奥で狩りをして生きるだけよ」
「忍の腕を使うこともできぬ」
「退屈にはもう飽きておるしのう」
「それでは」
 彼等なりにだ。考えていってだ。
 そうしてだ。こう言ったのだった。
「一度会ってみるか」
「そうじゃな。織田殿とな」
「そしてから決めるか」
「そうするか」
 こうしたことを話してだった。彼等は。
 信長について考えだ。そのうえでだ。
 今はどうするか。そのことも話し合った。
「しかしとりあえずはじゃな」
「織田殿が美濃を手に入れるかどうか」
「それが問題じゃな」
「うむ、そうじゃな」
 信長が美濃を手に入れるかどうか。そのことが焦点になっていた。
「美濃を手に入れられれば天下に大きく近付く」
「しかし手に入れられなければじゃ」
「それまでの御仁ということ」
 信長もだ。その程度だというのだ。
「桶狭間では確かに尋常ではないものを見せてくれたし」
「それまでのことも非凡」
「しかし美濃を手に入れられれば」
「そうじゃな」
「そこでわかる」
「果たして天下を治められる方かそうでないか」
「そのことが」
 それがわかると言ってだった。彼等はだ。
 とにかく今は状況を見ようとしていた。信長をだ。
 しかし当の信長はというと。
 今にも美濃に攻め入ろうという状況だった。だがその中でだ。
 帰蝶にだ。こんなことを言うのだった。
「美濃に入ればじゃ」
「美濃ですか」
「御主の甥と戦うことになるのう」
 このことについてだ。信長もだ。
 心中穏やかでないものを感じていた。そうして妻に言うのだった。
「それでもよいか」
「はい」
 強い声でだ。帰蝶は夫の言葉に答えた。
「殿がそうされたいのなら」
「そうすべきか」
「私は美濃にいた頃から」
「その頃からと申すか」
「父上以外の斉藤家の面々からはです」
 既にだ。言葉が他人行儀のものになっていた。
「疎まれていました」
「そうだったのか」
「特に義龍兄様からは」
 そうだったというのだ。
「それで。父上が亡くなられて」
「美濃についてはか」
「敵だとは思いましても身内だとは思いませんでした」
 これが帰蝶の美濃への想いだった。
「そうだったのです」
「ではあの龍興はじゃな」
「はい。あちらもそう思っているでしょう」
「敵じゃな」
「そうです。私達はお互いに敵同士です」
「仇じゃな」
 信長はこうも言ってみせた。
「まさに」
「そうなるやも知れません」
「では今の御主はじゃ」
 どうかというのだ。今の帰蝶は。
「織田の家の者か」
「織田のですか」
「左様。わしの妻じゃからな」
 だからだ。織田の家の者だというのだ。
「そうなると思うがどうじゃ」
「それで宜しいのでしょうか」
 遠慮したようになってだ。帰蝶は信長に問い返した。
「私が織田家の者になって」
「よい。御主さえよければな」
 信長は笑ってそれをよしとした。
「是非そうするがよい」
「左様ですか。私が織田家のいても」
「うむ、よいぞ」
 こう帰蝶に告げたのだった。そしてだ。
 さらにだ。こう告げたのだった。
「ではじゃ。美濃に入ればじゃ」
「その時はですか」
「二人で。稲葉山に登り」
 そうしてだ。何をするかというと。
「その頂上から美濃を見るとしよう」
「父上のおられた国を」
「そしてわしのものとなる国をじゃ」
 自身のこともだ。信長は話した。
「共に見ようぞ」
「さすれば」
「うむ、それではな」
 こうした話もしていたのだった。信長は今にも動ける態勢になっていた。だがその前にだ。美濃で一つの事件が起ころうとしており家康にもある者が家臣として加わるのだった。


第五十三話   完


                 2011・8・12 
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