戦国異伝
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第五十三話 徳川との盟約その六
「そうだったのじゃぞ」
「ううむ、左様でしたか」
「あの砦の功績は我等四人のもの」
「だからですか」
「均等だったのですか」
「そういうことじゃ。ではじゃ」
四人の話を終わらせてだ。今度は。
信長は今度はだ。慶次に顔を向けてだ。こんなことを言った。
「御主は何かあるか」
「それがしにですか」
「宴は好きじゃな」
「酒が飲めるのであれば何処でも」
好きだとだ。慶次は実際に飲みながら話す。
「何でも好きでござる」
「ではその酒の場を盛り上げる何かをしてみよ」
こう言ったのである。
「何かあるか」
「では。槍で舞いましょうか」
「うむ、ではそうしてみよ」
「それでは」
こう話してだった。慶次は。
立ち上がりあの朱槍を出してだ。宴の真ん中でだ。
舞をはじめた。その朱槍を存分に振るい雄々しく舞う。その舞を見てだ。
徳川の家臣達はだ。唸る様にしてまた言った。
「ううむ、この舞は」
「無茶なまでに大きく」
「かといって無駄もない」
「槍捌きも実に」
「いいものでござるな」
舞からだ。慶次郎の槍の腕も見るのだった。
その腕はだ。彼等から見てだった。
「平八郎に匹敵するな」
「うむ、槍捌きだけなら確かに」
「戦の指揮はわからないにしろ」
「槍捌きは」
四天王の一人本多に匹敵するというのだ。徳川家随一の武の者だ。
「どうやら織田殿の家臣は多いだけではありませぬな」
「噂通り様々な御仁がいて」
「そして織田殿を支えている」
「見事ですな」
そのことがわかったのである。そしてだ。
彼等は宴の中で織田の者達を見つつだ。織田家の力量も見たのだった。
そこまで見て清洲を後にし岡崎まで帰る。その間始終だ。
家康は満足した面持ちでいた。その面持ちで家臣達にこう話すのだった。
「わしの目に狂いはなかった」
「織田殿のことですか」
「見事な方だったと」
「そう仰いますか」
「うむ、見事な方だ」
こうだ。笑顔で話すのである。
「昔の信長様のままじゃ。あのまま大きくなられたわ」
「それが見事だと仰るのですね」
「そうだと」
「左様。その通りじゃ」
まさにそうだというのだ。
「いや、よい時を過ごせた」
「盟約も無事結びましたし」
「全ては順調に終わりました」
「何もかも」
「万事終わりましたな」
「いや、終わりではない」
家康は家臣の一人の言葉をここで否定した。
そのうえでだ。彼はこう言うのだった。
「これからじゃ」
「これからといいますと」
「はじまるのでございますか」
「これからですか」
「そうじゃ。はじまる」
今まさにだ。そうなるというのだ。
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