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戦国異伝

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第五十三話 徳川との盟約その五


「しかしそれがしだけではなくです」
「忍の方もおられましたな」
「はい」
 まさにだ。その通りだというのだ。
「こちらに」
「徳川殿、お初になります」
 大学が指し示したのは蜂須賀だった。その彼がだ。
「蜂須賀家政でございます」
「貴殿があの時の忍でありましたか」
「はい」
 その通りだとも答えるのだった。
「いや、あの時は」
「してやられましたぞ」
 家康が笑って蜂須賀に話す。
「中々。手が込んでおられて」
「左様ですか」
「そうです。あれは大学殿と貴殿が考えられたものでしょうか」
「いえ、違います」
 しかしだ。そうではないとだ。蜂須賀は答えた。
「確かにそれがしも考えはしました」
「しかし違うと」
「考えたのは主に」
 今度は蜂須賀がだった。ある者をその手で指し示した。その者はというと。
 その者を見てだ。家康は目を丸くさせた。彼の家臣達もだ。
「随分小さいのう」
「ううむ、織田家の中で一番小さいのではないか?」
「しかも猿そのままの顔じゃな」
「身体つきも弱そうじゃ」
「この者がか」
「砦で知恵を出していたというのか」
 こう口々に言っていく。そうしてだ。
 家康がだ。その者に対して問うたのだった。
「貴殿の名は」
「木下秀吉といいます」
 こうだ。その者木下は頭を垂れて家康に答えた。
「以後お見知りおきを」
「貴殿があの砦で知恵を出しておられましたか」
「いえいえ、それがしは何もしておりませぬ」
 その猿そのままの顔を笑わせてだ。木下は顔を上げて言うのだった。
「ただ適当なことを言っただけでございます」
「そう申されるか」
「働いていたのは大学殿に小六に」
 その二人だというのだ。
「そして我が弟の秀長にございます」
「弟殿がおられるのですか」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。木下は家康にまた話す。
 そして今度は木下がだった。人を指し示した。その者は。
 木下とは全く似ていないだ。痩せた顔で兄に比べて大きな者だった。その彼をだ。木下は家康に紹介したのである。
「この者がです」
「木下殿の弟君の」
「木下秀長と申します」
 彼もだ。頭を垂れて名乗る。
「宜しく御願いします」
「よしなに。左様ですか」
 四人を見終わってからだ。家康は満足した面持ちで話す。
「貴殿等があの見事な活躍をされたのですか」
「いえいえ、それがしはいただけで」
「動いただけでございます」
「ただ。言っていただけですぞ」
「兵糧を数えていただけです」
「ほれ、謙遜は無用ぞ」
 互いに功を譲り合う四人にだ。信長が言った。
「では四人の功じゃ」
「我等四人のですか」
「そうなりますか」
「だからあの時も褒美は四人均等にやったのじゃ」
 桶狭間に勝った後の論功でだ。彼は四人にそうしたのだ。 
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