戦国異伝
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第五十三話 徳川との盟約その二
「奇矯な方とは聞いていましたが」
「ではここでも傾いた格好で来られるのでは?」
「いや、流石に百四十万石の大名ですからそれはないでしょう」
「幾ら何でも」
「いえ、織田殿ですぞ」
信長ならば。このことが大きかった。
「実の父の位牌に灰を投げ付けたこともありましたし」
「常に奇妙ないで立ちでしたし」
「そうしたことを考えますと」
「ここでも」
何か奇矯なことをしてくるのではないかというのだ。
そうしたことを話してだ。彼等は。
信長に対して疑問さえ感じていた。しかしだ。
家康は姿勢を正して信長を待っている。そこには疑念なぞ微塵もない。
その主を見てだ。徳川の者達は言うのだった。
「あの、殿」
「宜しいのですか?」
「織田殿はまだ来られませんが」
「それでも」
「何、織田殿は必ず来られる」
家康はこう言ってだ。彼等をそれで止めたのだった。
そのうえでだ。彼はこんなことも言った。
「焦る必要はない」
「ありませぬか」
「左様ですか」
「そなた達は鳥が鳴かねばどうする」
家康はここで彼等にこう問うた。
「その場合はだ」
「鳥が鳴かぬ場合ですか」
「その場合ですか」
「左様。その場合はどうする」
また問う家康だった。
「去るか。それとも鳴かせるか」
「ううむ、去るでしょうか」
「いえ、それがしは鳴かせます」
「やはり。それがしは去ります」
「それがしもです」
「いえ、鳴かせます」
そこはそれぞれだった。しかしだ。
家康はだ。こう彼等に答えたのだった。
「わしは待つ」
「待ちますか、殿は」
「そうされますか」
「そうじゃ。鳴くまで待つ」
そうするとだ。家康は言うのである。
「その際決して焦らぬ」
「では今もですか」
「待たれますか、このまま」
「そうされますか」
「そうじゃ。信長殿は絶対に来られる」
そのことを確信してだ。彼はまた話す。
「それが確かなら。待っても何の問題もない」
「そうですか。待たれますか」
「このまま織田殿を待たれ」
「そして織田殿と会われる」
「そうされますか」
「うむ」
家康の今の返答は一言だった。
「では待とう。そして」
「そして?」
「そしてといますと」
「楽しみにしよう」
微笑みだ。こんなことさえ言ってだった。
家康は家臣達を止めそのうえで信長を待つのだった。見ればだ。
織田の家臣達は全く焦ってもおらず悠然としたままだ。
そうしてそのうえでだ。彼等が待っているとだ。
遂にだ。部屋の襖が開いてだった。
信長が出て来た。そのいでたちは。
「ふむ。これは」
「至って普通ですな」
徳川の者達が言う。見ればだ。
彼は青だった。青い礼装で出て来たのだ。それはまさに織田の色だ。
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