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戦国異伝

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第五十二話 青と黄その十二


「そうなってしまう」
「殿ですらですか」
「刺し殺されますか」
「蠍には」
「そうよ。若しわしが松永を前にすれば」
 その時はどうするか。信玄は強く言った。
「その場で斬る」
「そうですな。そうするべきです」
「あの者はあまりにも剣呑です」
「噂では長慶殿が今死のうとしているのも」
「あの者が一服持ったとか」
「そうした油断のならぬ男なぞ傍に置くべきではありませぬ」
 二十四将達もだ。そのことを言う。
「断じてです。それにそうした者を用いずともです」
「我等、粉骨砕身して御館様にお仕えします」
「ですから」
「わかっておる。わしも人を見る目はあるつもりだ」
 信玄は確かな声で応えた。
「松永は断じて用いぬ」
「そうあるべきです。あの者だけはです」
「使えるものではありませぬ」
「役立たずよりも遥かに厄介かと」
「優れた信用できぬ者なぞ」
「その通りじゃ。しかし三好殿もな」
 その長慶についてだ。こう言う信玄だった。
「よくもあんな者を用いたものじゃ」
「全く信用できぬというのにですな」
「瞬く間に家の執権にしておりますし
「何を考えておられたのでしょうか」
「一体」
「三好殿はそこまで人を見る目がなかったのか」
 信玄はこうも考えた。しかしだ。
 彼が聞いている長慶はだ。どうかというと。
「まさに近畿を手にするに相応しい御仁と聞いておったが」
「しかしですか」
「あの様な者を用い重用し」
「そして惑わされた」
「そのことがなのですな」
「それも妙じゃな。あの松永という者」
 どうかというのだ。松永は。
「若しかするとわしが思っている以上に剣呑かも知れぬな」
「といいますと何かしらの異形の者ですか」
「そうした者でございますか」
「若しや」
「そうやも知れぬな」
 松永についてだ。信玄はふと思ったのだった。しかしだった。 
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