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戦国異伝

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第五十一話 堅物のことその十四


「それはそれでよい。しかしじゃ」
「その虎も龍もですな」
「殿は」
「その手中に収めてくれよう。そして天下をじゃ」
「治められる」
「そうされますか」
「虎や龍の力は戦の為だけにあるのではない」
 ここでもだ。戦以外のものも見て言う信長だった。
「天下を治める為にもあるのじゃ」
「その力で、ですな」
「天下を」
「左様じゃ。その為にある」
 信長はまた言う。
「天下を手中に収めるよりもその天下を治める方が難しい」
「それがですね」
「さらにですね」
「難しいと」
「そうじゃ。だからこそ御主達にしても」
 そのだ。今の家臣達もだというのだ。
「天下を手中に収めて終わりではないぞ」
「はい、それからもですね」
「やるべきことはある」
「そうですな」
「存分に働いてもらう」
 このことはまさに念押しであった。
「それはわかっておろう」
「はい、それは」
「既に」
「わしは一度用いた者は決して放り捨てたりはせぬ」
 それ位なら最初から用いないのが信長の考えだ。だが、だった。
 それと共にだ。信長はこうした考えも併せ持っているのである。
「しかし最後まで働いてもらう」
「死ぬまでですな」
「最後とは」
「そうじゃ。まあ隠居したくなればそれでよい」
 それは許すというのだ。
「わしもそこまでは言わぬ。しかしじゃ」
「はい、さすればです」
「我等死ぬまで殿と共に」
「働かせてもらいます」
「頼むぞ。ではさしあたってはじゃ」
 早速だ。信長は人遣いの荒い風に見せてきた。
「三河じゃ。間も無く竹千代が来るぞ」
「そうですな。徳川殿が来られます」
「して。この清洲において」
「盟約を」
「我等は青でいく」
 そのだ。織田の色だ。
「よいな。全てを青でいくぞ」
「はい、織田の色で迎えましょうぞ」
「徳川殿を」
 彼等は意気もよく盟約の場を整えに入るのだった。家康との再会の時は確実に近付いていたのだった。


第五十一話   完


                   2011・7・28 
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