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戦国異伝

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第五十一話 堅物のことその十一


「織田信長。恐ろしい男よ」
「しかしその尾張の蛟龍といえどもです」
「我が家は倒せませんな」
「それだけはできませぬ」
 彼等が確信を持って言える根拠、それはというと。
「この小田原城は陥せるものではありませぬ」
「幾ら攻められてもです」
「陥とせる城ではありませぬ」
「誰が来ようとも」
「その通りじゃ。この小田原城はまさに難攻不落」
 主の氏康もだ。このことを確信していた。
「誰にも攻め落とせるものではない」
「そして領内に置いている城達」
「これだけの護りがありますから」
「例えどれだけの大軍が来ようともです」
「この小田原城だけはです」
 陥ちぬ、そうだとういうのだ。
「それでどうして織田が我等に勝てましょう」
「この小田原城は天下一の城です」 
 その自負がだ。確かにあった。
「誰が何をしようとも。どうした神であろうとも」
「御仏であろうとも」
 この場合は明王のことだ。憤怒の顔で仏敵を調伏する者達だ。
「この小田原は無理です」
「織田信長がどれだけ強くとも」
「できるものではありませんな」
「その通りじゃ」
 また答える氏康だった。
「この小田原城がある限りわしは誰にも負けぬ。それにじゃ」
「それに」
「それにといいますと」
「わしもおる」
 城だけでなくだ。彼もいるとだ。
 氏康はその目の光を強くさせて述べた。
「このわしもじゃ。相模の獅子がのう」
「そして我等も」
「いますな」
「わしと北条二十八将がおる」
 北条はこれだけだ。武田や上杉よりも多い。
「それで何故負けようか」
「ですな。何があろうとも」
「我等は敗れませぬ」
「決して」
「もっともここまで来られればの話じゃ」
 氏康は言葉を一旦狭めてみせた。
「この小田原までな」
「それまでに武田殿とあの上杉がいる」
「左様ですな」
「それでは」
「その二つを破ってもじゃ」
 そのだ武田と上杉をだ。
「わしを破ることは適わぬわ」
「そして小田原も」
「この城もまた」
「わしは決して敵に背は向けぬ」
 絶対にだった。それは。
「傷は何じゃ」
「はい、向こう傷ばかりです」
「そうです」
 そうだとだ。話す彼等だった。
「殿は全て向こう傷です」
「その受けられている傷は」
「それはあの男に対しても同じ」
 そのだ。織田信長とだというのだ。
「わしのところに来れば相手をしてやろう」
「はい、それでは」
「その時は」
「そうする。さて」
 ここまで話してだった。氏康は。 
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