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戦国異伝

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第五十一話 堅物のことその九


「わしはわからぬ。わからぬことはせぬ」
「その他の書についてもですな」
「そうじゃ。まあ他にも色々な書を読んでおるがのう」
「そういえばこの前は」
「老子を読んだ」
 所謂老荘思想だ。それも読んだというのだ。
「あれも中々面白かった。自然じゃな」
「自然ですな」
「孫子があるが」
 今度は兵法書の話になる。信長は当然ながらこの書も読んでいる。
 それでだった。信長の言うことは。
「あの書は老子の影響を受けておるな」
「実はそれがしも」
 ここで言う村井だった。
「老子は読んだことがあります」
「そして孫子もじゃな」
「はい。どちらも」
 あると答える彼だった。
「そのうえで、ですが」
「似ておるな」
「そう思います」
「兵法は自然にか」
「その時と場合に応じて変えていってですな」
「やはりそれがよいな」
 信長は言った。
「型にはめたやり方では限度がある」
「ではこれからは」
「うむ、わしの戦は一つではない」
 ではだ。どうかというと。
「その都度変えていくぞ。しかし基礎としてじゃ」
「その土台となるのは」
「数じゃ」
 まずはそれだった。兵の数だというのだ。
「それに飯や具足、刀に槍もじゃ」
「質のよいものを充分に揃え」
「そうして戦っていく。戦は数に飯じゃ」
 その二つこそが大事だというのだ。
「そうしたことが万全ならばじゃ」
「どういった戦にも勝てますか」
「こちらが油断せぬ限りはな」
 この辺りは桶狭間のことを念頭に置いていた。勝った彼にとってももあの戦ははだ。非常に学ぶべきことの多い戦だったのだ。
「勝てるのじゃ」
「では尾張兵でも」
「尾張の者は確かに弱い」
 その弱さは天下に知られている。尚尾張だけでなく上方や安芸、それに駿河や相模といった辺りの兵達もお世辞にも強いとは言われていない。
「しかし数さえあればじゃ」
「勝てますな」
「それに今は兵と百姓を分けておる」
 それはかなり早い段階から進めている。そして今は。
「完全に兵の者達が三万五千じゃな」
「はい。今は」
「この三万五千は何時でも戦ができる」
 そのことがだ。どうかというのだ。
「そう、田の刈り入れの時でもじゃ」
「ではその時を狙い」
「それも考えておる」
 話す信長のその目が光った。そのうえでの言葉だった。
「攻めるには格好の時じゃからな」
「では。今度の美濃攻めは」
「その時じゃ」
 まさにだ。その田の刈り入れ時にだというのだ。
「攻めるぞ。よいな」
「はっ、それでは」
「とはいっても。一気に稲葉山には無理じゃな」
 信長はこうも言ったのだった。
「流石にな」
「あの城まですぐにはですな」
「うむ。まずはあの城を攻める足掛かりを築く」
 言いながらだ。信長は頭の中で尾張と美濃の地図を描いていた。そこに彼が今いる清洲の城もあれば斉藤の稲葉山の城もある。そしてその間のだ。 
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