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戦国異伝

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第五十話 徳川家康その八


「その為にもじゃ。そして」
「そして?」
「そしてといいますと」
「美濃で終わりではない」
 それから先のこともだ。見据えているのだった。
「そこからさらにじゃ」
「天下を」
「それを手に入れられる」
「そうされますな」
「そうじゃ。わしが天下を手に入れ治める為に」
 その為にだった。
「浅井と徳川はじゃ」
「必要ですか」
「だからこそ今からですか」
「盟約を結ぶ。どちらの家も頼りになるぞ」
 こう話してだった。信長は。
 今己の前にいる報告をした川尻に対してだ。こう継げた。
「して鎮吉よ」
「はい」
「御苦労だった」
 穏やかな笑みを浮かべてだ。労いの言葉をかけた。
 そしてだ。彼にだった。
「褒美を取らそう」
「有り難き幸せ」
「これじゃ」
 そしてだ。己のすぐ傍にあっただ。
 あるものを差し出した。それは。
「茶器!?」
「そうじゃ。茶器じゃ」
 誇らしげに笑ってだ。川尻に対して言った。
「それをやろう」
「これは」
「どうじゃ。見事な碗じゃろう」
 その陶器のだ。黒い碗を見せて話すのである。
「そう思うな」
「はあ。しかし」
「茶器であることに不満か」
 信長は驚きを隠せない顔のままの川尻に対して尋ねた。
「そうじゃな」
「いえ、それは」
「こう思っておるな」
 川尻の心を見抜いてだ。そのうえでの言葉だ。
「茶器に何の価値があるのかと」
「正直に申し上げて宜しいでしょうか」
 川尻もここである意味覚悟を決めてだ。そのうえでだ。
 信長の問いにだ。こう答えたのだった。
「それがし、確かに」
「茶器に価値はないと思うておったな」
「はい、刀や領地と比べると」
 如何程のものがあろうか。彼は実際にこう考えていた。  
 そのうえでだ。信長に対して述べたのだった。
「どうにも」
「ははは、やはりそう思っておったか」
「申し訳ありません」
「謝ることはない」
 その必要はないというのだった。謝罪することはだ。
「確かにそう思うのも無理はない」
「どうにも」
「しかしじゃ。この茶器がじゃ」
 どうだというのだ。その茶器がだ。
「昨今都や駿河、それに周防といった国でじゃ」
「都等で、ですか」
「そうじゃ。そうした場所で茶が流行っておってな」
 信長もよくしているだ。その茶がだというのだ。
「茶器も質のいいものが尊ばれておるのじゃ」
「そういえば」
 ここでだ。川尻もふと気付いた。
 そしてそのうえでだ。こう己の主に述べた。
「何でも三好の重臣である松永殿は」
「聞いておるな」
「大層な茶器を持っておられるとか」
「堺にも多くの茶器がある」
「ああ、あの堺にも」
 川尻はかつて信長と共に訪れたあの町のことも思い出した。堺はただ栄えているだけではなかった、このことに気付いてのことだった。 
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