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戦国異伝

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第五十話 徳川家康その六


 西の織田の脅威がなくなる、しかもそれだけではなかった。
「織田殿との同盟でその援軍も期待できますし」
「これは非常に大きい」
「まさにです」
「断る理由はありませぬ」
「それではですな」
「そうじゃ。断ることは決してしない」
 絶対にだと。家康も言う。
 その話をしてからだ。さらにだった。
 家康はその尾張に行く理由もだ。家臣達に話した。
「それで尾張に行く理由はじゃ」
「それですな」
「ここでよしと言われてもよかったですが」
「しかしあえて尾張に行かれてですか」
「それを決められますか」
「その理由は」
 家臣達もそのことを問うた。そしてその理由をだ。
 家康はだ。一呼吸置いてからだ。そうして述べるのだった。
「一度信長殿と会ってみたいのじゃ」
「その織田殿とですか」
「御会いしたい」
「それでなのですか」
「そうじゃ。信長殿が今どうなのか」
 それを見たいというのだ。
「だからこそじゃ。あえてじゃ」
「尾張に行かれそのうえで」
「織田殿の器量を御覧になられ」
「そうして」
「この目で見なければわからぬではないか」
 家康はこうも言った。
「ならばです」
「それならばですか」
「あえて会われそのうえで」
「確かに決められる」
「左様ですか」
「幼い頃の織田殿はそれは愉快な方だった」
 幼い頃の思い出もだ。それも話すのだった。
「今はどうであろうか」
「つまり傾いておられた」
「それは今はどうなのか」
「それですか」
「そうじゃ。今も傾いておられれば」
 よいというのだ。実は信長の資質についてはもう家康も見極めていた。
 だがそれでも足りない。家康が言うのはこのことだった。
「それでよい」
「傾いておられればですか」
「それでなのですか」
「手を結ばれますか」
「見ての通りわしはじゃ」 
 他ならぬだ。家康自身はどうかというのだ。
「傾くということには縁がない」
「三河者自体がですな」
「どうしてもそうしたことはです」
「疎いですな」
「確かに縁がありませぬ」
 見れば彼等の中に一人もだった。そうした感じの者がいない。誰もが奇麗にまとまった感じである。如何にも真面目といった趣だ。
 その彼等がだ主と話すのだ。
「傾くにも向き不向きがありますな」
「そうですな。あれもどうやら」
「誰もができるというものではないようです」
「ならばそれでよい」
 家康は真面目でいいとした。 
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