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戦国異伝

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第四十九話 認めるその九


「あの時父上は我等が織田の軍門に下ると仰った」
「あの御言葉ですか」
「大殿の」
「左様、あの言葉が現実になるやもな」
 こう言うのである。
「このままだとな」
「まさかとは思いますが」
「織田信長、あの男はうつけではありませんか」
「そうではないですか」
「それが今になってわかった」
 信長のその資質をだ。義龍もわかったというのだ。
「うつけがあそこまでできるか」
「尾張を統一し今川を退けですね」
「そして伊勢と志摩を手に入れ」
「浅井と手を結ぶ」
「さらには三河の徳川と手を結ぶとか」
 このこともだ。彼等は察しているのだった。既にだ。
「ここまでする者はですか」
「やはり只者ではない」
「そういうことですか」
「うむ、手強いぞ」
 まさにそうだというのだ。
「尋常な者ではない」
「政も見事だといいますし」
「尾張はかなり豊かになっているとか」
「しかもそれが伊勢と志摩にまで及んでいるとか」
「わしにはあそこまでできん」
 自分では無理だとだ。義龍は言い切った。
「とてもな」
「しかしそれを果たす織田信長」
「あの者はどうなのか」
「それを突き詰めて考えていくとですか」
「わしなぞ足下にも及ばん」
 またこうしたことを言うのだった。
「見誤ったわ」
「しかし今まで美濃に攻め入ってきていません」
「これは一体どうしてでしょうか」
「確実に攻め落とせるようになってからじゃ」
 それからだというのだ。
「織田が動くのはな」
「この美濃を確実にですか」
「手中に収められるようになってから」
「それから動いてくる」
「そうなると」
「それは間も無くじゃ」
 そのだ。信長が美濃に攻め入って来る時も近いというのだ。今の義龍にはこのこともわかるのだった。
 それを読んだうえでだ。彼はさらに話す。
「まずは足掛かりを築く」
「足掛かりといいますと」
「この稲葉山を攻める為のですか」
「それを築きますか」
「左様。そうしてからじゃ」 
 さらにだというのだ。それからだとだ。
「本格的に来るであろうな。既に」
「国人達がですな」
「徐々に斉藤から織田に加わっております」
「それは織田のそういうところも読んで、ですか」
「今より」
「そういうことじゃ。あの者達は滅ぼさねばならん」
 美濃の主としてだ。それはわかっていることだった。さおなければこの流れがさらに大きくなり斉藤の崩壊につながる。だからこそだ。 
 しかしそれができるのかどうか。それはというと。
「最早手遅れか」
「あの者達を抑えることは」
「そのことが」
「うむ、わしは最早幾許もない」
 これが大きな理由だった。義龍から見てのことだ。 
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