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戦国異伝

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第四十八話 市の婿その十四


 信長は信広にも茶を差し出し。彼にも話した。
「御主は勘十郎を助けよ」
「武においてですな」
「そうじゃ。勘十郎は文」
 そして彼は武だというのだ。
「そなた達二人で尾張を守れ」
「して兄上は美濃に」
「あの地に入られますか」
「そのつもりじゃ」
 こう話すのである。
「美濃の稲葉山に入る」
「美濃を手中に収めればあの城をですか」
「我等の拠点にすると」
「そう考えている」
 それは何故かも話す信長だった。
「都に近いからのう」
「その為ですか」
「あの城に入られますか」
「それにあの城は堅固じゃ」
 それであまりにも有名な城である。まさに難攻不落なのだ。
「それにあの城におれば」
「あの城にいれば」
「どうだと」
「武田に対して動きやすい」
 そうだというのだ。彼は今は武田を見ていた。
 そしてだ。弟達に対して真剣な顔でだ。武田のことを話すのだった。
「我が家が美濃を手中に収めれば二百二十万石」
「武田はそれに対しておよそ二百万石」
「互角ですな」
「臣下もじゃ。我が織田に次ぐ」
 これは信長が冷静に見ての評価だ。織田には優秀な家臣が数多い。このことは彼もよくわかっているのだ。だがしかしだ。
 武田の家臣の質がいいのもだ。これもその通りであった。
 それもわかっているからこそだ。彼は今真剣な顔で話すのだった。
「だからじゃ」
「気をつけるべきですな」
「あの家は」
「婚姻の手筈はした」
 武田にもだ。それをしたというのだ。
「しかし。それでもじゃ」
「あの家はどうしてもですか」
「油断できぬと」
「虎じゃ」
 それだというのだ。まさにだ。
「天下を狙う虎じゃ」
「ではやがては我等と戦う」
「そうなりますか」
「なる。やがてはな」
 信長は弟達に言い切ってみせた。
「だからじゃ。何があろうともすぐに対応できるようにじゃ」
「あの城に移られますか」
「稲葉山に」
「あの城は確かに簡単には陥ちぬ」
 しかもだった。
「治めやすいしな」
「治めやすくもある」
「あの城はですか」
「うむ。山城じゃが場所がいい」
 その場所故にだというのだ。治めやすいというのだ。
「だからあの城じゃ。あの城に入る」
「尾張から離れ」
「そうしてですな」
 そうした話をしてだった。信長はこれからのことも頭に入れていた。そのうえで天下を考えているのだった。それは今茶を飲んでもだった。
 それでだ。彼はまた市に話した。
「御主もじゃ」
「私もですか」
「天下のことは考えておくことじゃ」
「おなごであってもですか」
「この場合おのこもおなごもない」
 どちらでもだというのだ。男でも女でもだ。
「天下にはおのこもおなごもおるからな」
「だからなのですね」
「そうじゃ。書を読みそして考えよ」
「兄上と同じくですね」
「そして浅井に嫁いでも」
 それからもだというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「では飲もうぞ」
 こうしてだった。市の婚礼の話も順調にまとまった。そうしてだった。織田は美濃を攻める用意を、そしてそれからのこともだ。着々と手を打つのだった。


第四十八話   完


                 2011・7・5 
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