戦国異伝
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第四十八話 市の婿その十三
「酒は飲むか」
「酒をですか」
「そうじゃ。それはどうじゃ」
「それはいいです」
酒はだ。いいと返す市だった。
そのうえでだ。彼女は笑って兄にこう返した。
「その辺りは兄上と同じです」
「左様か。飲めぬか」
「はい、飲めませぬ」
そうだというのだ。
「それはどうも」
「同じか、それは」
「どうも。お酒は飲みますと」
「頭が痛くなるな」
「はい、一口飲んだだけで」
「わしもじゃ。酒はな」
「飲めませぬ」
こうしたところは全く同じだった。とにかく信長も市も酒は飲めぬのだ。
それでだ。市は兄にあらためて話した。
「ですからここは」
「茶か」
「それと何か甘いものを」
「そうじゃな。果物を用意してある」
それもだというのである。
「ではな。それを食しながらな」
「ゆっくりとお話を」
「ではな。そうしてじゃ」
こうしてだった。二人は兄妹で話そうとする。しかしここでだ。
信行と信広が部屋に来てだ。こう市に言うのだった。
「ふむ、もう帰って来ていたか」
「早いのう」
「勘十郎兄様達、どうしてここに」
「いや、我等も兄上にお話したいことがあってな」
「それで来たのだ」
そうだとだ。二人の兄は市に話しながら信長の前に来た。
そのうえでだ。彼に一礼してから述べるのだった。
「三十郎の件ですが」
「全て終わりました」
「そうか。長野家に完全に入ったか」
「はい、これで長野家は織田家の分家」
「完全にそうなりました」
つまりだ。信包が長野家の主に名実共になったというのだ。伊勢で有数の家が完全に織田家の手に落ちたというのだ。これでだ。
そしてだ。続いてであった。
「茶箋も三七もです」
「今伊勢に向かっております故」
「左様か。伊勢は完全にじゃな」
自身の手中に収まったことをだ。信長は実感するのだった。
そしてであった。信長はそれを述べに来た二人の弟達にもだ。あれを勧めるのだった。
「してどうじゃ。これから」
「茶ですか」
「それをですね」
「そうじゃ。市も飲む」
そうしてだ。彼等もどうかというのだ。
それを受けてだ。二人もこう返した。
「では。我等も」
「ご相伴に」
「茶もあれじゃ。一人で飲むよりじゃ」
大勢で飲む方がいい。そうだというのだ。
そうして実際に兄妹で茶を飲みながらだ。彼等はあらためて話すのだった。
信長は信行に自分が淹れた茶を差し出してからだ。彼に告げた。
「そなたはじゃ」
「はい。それがしは」
「清洲を守れ」
そうせよとだ。彼に話すのだった。
「よいな。そうせよ」
「わかりました。それでは」
信行は兄の言葉に静かに応える。そして次は。
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