戦国異伝
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第四十七話 伊勢併呑その十一
「そこまですればです」
「斉藤が如何に強くとも」
「それでもですか」
「三満五千の兵が前にいて」
対する斉藤は二万だ。兵力差は織田にかなり有利になったのだ。
「そしてですか」
「ここで織田殿は外も決めれば」
「斉藤としても打つ手がない」
「そうですか」
「そうです。織田殿は万全の状況で戦ができます」
それで後は戦をするだけだというのだ。確かに信長に有利となる。
そうして整えてからだというのであった。
「勝つ戦がです」
「ううむ、では今暫くですな」
「我等は見させてもらいますか」
「そうすべきですな」
「そういうことです。では」
ここまで話してだ。雪斎はだ。
同僚達にだ。あるものを勧めたのであった。それは。
「茶でも如何でしょうか」
「茶ですか」
「それをですな」
「はい、如何でしょうか」
こう言ってまた勧める雪斎だった。
「近頃茶を飲んでいませんし」
「そういえばそうですな。近頃茶をです」
「飲んではいませんでしたな」
「これはどうも」
言われて気付いたのだった。このことにだ。
それでだ。彼等は口々にこう雪斎に話した。
「では。お茶をですな」
「飲みますか」
「では拙僧が淹れまする」
雪斎は茶道にも堪能であるのだ。元々茶は禅寺からはじまっている。雪斎は他ならぬその禅宗の僧なのだ。それならばであるのだ。
その彼がだ。また同僚達に話す。
「それで宜しいでしょうか」
「おお、和上のですか」
「和上御自ら茶を淹れて頂けるのですか」
「そうされるのですか」
「では」
そしてだ。彼等はだ。
雪斎のその話に乗った。それでだった。
「宜しく御願いします」
「久方ぶりの和上の茶をです」
「淹れて下さい」
こうしてだった。彼等は雪斎のその茶を飲むのだった。彼等も久し振りに落ち着いた時間を過ごし楽しむ為の時間を過ごせたのだった。
尾張では大きく動こうとしていた。その頃三河ではだ。元康がこう家臣達に尋ねていた。
「どうも松平のままではよくないようじゃな」
「はい、只の地名ですから」
「源平藤橘のどちらでもありません」
「これでは守護や官位等を頂くのに問題が出ます」
「三河を治めるのにも不都合が出ます」
「そうじゃな」
その通りだとだ。元康も考える顔で言う。
「これからは三河の確かな主になるというのにそれではのう」
「大義名分もありませんし」
「ですからここは」
「どの家になるかのう」
源平藤橘のだ。どれかにだというのだ。日本の家は全てこの四つから派生されているとされる。だからその四つのうちどれかというのだ。
しかしだ。いざ何処にするかというとだった。元康も家臣達も悩むのだった。
「それでどの家にするか」
「果たしてどの家がいいか」
「それが厄介ですな」
「全くです」
家臣達も元康もそれぞれ考える。だがその中でだ。
不意にだ。松平家の食客になった氏真がだ。こんなことを言うのだった。
「ふむ。それではじゃ」
「それでは?」
「それではといいますと」
「というか氏真殿おられたのですか」
「いや、さっきまで百姓の子供達に蹴鞠を教えておったのじゃが」
こうした気さくなところは今も変わらない氏真だった。彼は民達にとっては気さくで親しみ易い若殿として知られている。公達にも間違えられる。
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