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久遠の神話

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第零話 炎の覚醒その十五


 しかしその彼のところにだ。不意にだ。携帯のメールで連絡が来たのだった。
「おい、マジかよ」
「あの、とにかくです」
「病院だよな」
「すぐに来て下さい」
 こう連絡が来たのだった。
「ご家族が」
「何でこうなるんだよ」
 携帯をすぐに切ってだ。彼は忌々しげに言った。
 そしてそのうえでだ。部活に向かう途中でユーターンする。その彼に友人達が声をかける。
「おい、どうしたんだよ」
「何があったんだよ」
「悪い、今日は無理だ」
 こう彼等に返す。背を向けたうえで。
「明日はちゃんと来るからな」
「病院がどうとかって」
「まさか」
「何もないさ」
 否定の言葉だった。否定になれない状況だとしても言ってしまった。
「別にな」
「そうか。それじゃあな」
「安心して行って来い」
「そうしろよ」
「ああ、わかった」
 友人達の言葉を受けてだ。そのうえでだった。
 彼は自分のバイク、ホンダワルキューレに乗りだ。そのうえでだ。
 病院にまで向かう。そこに飛び込むとだ。すぐにだった。
「中田直行さんですね」
「はい、そうです」
 こうだ。入り口で待っていた医者に答える。連絡してきた人ダと察した。
「俺がその中田です」
「そうですか。それでなのですが」
「親父は!?」
 まずはだ。父から問うた。
「それでお袋は。美和子は」
「ちょっと待って下さい」
 明らかに我を失っている彼にだ。医者は穏やかに告げた。
「まずは中に入りましょう」
「病院の中に」
「はい、話はそれからです」
「わかりました」
 中田も医者の言葉に頷く。そうしてだった。
 二人で病院の中に入った。その中は。
 白く広い。受付もかなり多くの看護士が詰めている。その中を見てだ。
 中田は少し落ち着きを取り戻してだ。その白い世界を見て医者に言った。
「それで、ですよね」
「はい、三階です」
「三階ですね」
「そこにおられますので」
 落ち着きを取り戻した彼への言葉だ。
「では今から」
「わかりました。それじゃあ」
 二人はエレベーターに乗りそこから三階に来た。それでだった。
 三階もまた白い世界だった。ただし廊下はクリーム色と言っていい。
 そのビニールの廊下を進みながらだ。医者に問うのだった。
「で、親父達は」
「何とかです」
「何とか!?」
「一命は取りとめました」
 最悪の事態はなかったというのだ。
「幸いなことに」
「そうですか」
 その言葉を聞いてだ。中田は安堵した。しかしその安堵した彼にだ。
 医者はだ。さらに言ったのだった。
「ですが」
「ですが?」
「意識は戻られていません」
「三人共ですか?」
「はい」
 医者は沈痛な顔で答える。その白髪を整えた眼鏡の顔が曇っている。
 その曇った顔でだ。彼に話すのだった。
「意識不明です」
「じゃあまさか」
「脳は無事です」
 脳死でもないというのだ。 
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