久遠の神話
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第十話 偶発戦その三
「やはり少ない」
「それもやけにですね」
「伊達にケルベロスの兄弟ではないな」
「それも同じ犬ですよね」
それだけにだった。その犬は。
「だったらですか」
「力も相当なものだ」
「だからですね」
「こうした戦いもできる」
これが彼の言うことだった。
「そういうことだな」
「しかも頭も回りますね」
こうも言う高橋だった。
「この犬は」
「おそらく頭だけではないな」
「頭だけじゃないですか」
「ケルベロスは毒の犬だ」
今度はこのことを高橋に話したのである。
「そしてオルトロスはだ」
「こいつも毒を使うんですか?」
「いや、炎だ」
「じゃあドラゴンみたいにですね」
「そうだ。炎を吐く」
そうするというのだ。
「それも七色の炎をだ」
「何ですかね、その炎って」
「奇麗かも知れない。しかしだ」
「それでもですね」
「そんな悠長なことを言っていられる場合でもない」
こう言ってだ。高橋に警戒を促す。今以上に。
そしてその警戒の中でだ。あの犬が再び出て来た。姿形は同じだ。しかしだった。
全身から放たれる気配はだ。先程の分身以上だった。その怪物を見てだ。
工藤はだ。再び高橋に告げた。
「これが本物だからな」
「本番ってころですね」
「そうなる。ではいいな」
「ええ、やりますよ」
真剣な顔でだ。高橋も答える。74
「正念場ですからね」
「そういうことだ。生きるか死ぬかのな」
「じゃあ。とりあえず戦い方は」
「それ自体は先程と変わらない」
やはりだ。二つの首に一人ずつ向かい隙を見てだというのだ。
しかしだった。今回は決定的に違っていることがあった。それは。
「炎が来ることはだ」
「ええ、忘れずにですね」
「そのうえで戦う」
見ればだ。怪物のそれぞれの口にはだ。
既に炎が見えていた。虹の色が複雑に絡み合っている炎だった。その炎を見てだ。
高橋はだ。炎から目を離さずに工藤に言った。
「普通の赤いのより熱そうですね」
「そうだな。それ以上にな」
「つまりあれですか。魔物の炎ですね」
「全てを焼き尽くす炎だ」
その炎を見ての言葉だった。
「受けたら終わりだな」
「ですよね。あからさまに妖しい炎ですね」
「だからだ。受ける訳にはいかない」
「はい、それじゃあ」
「こちらも力を使う」
言いながらだった。工藤がだ。その十字の剣をだ。
一閃させそのうえでだ。大地を割った。すると。
怪物がその中に落ちる。しかしそこにはだ。
怪物は落ちなかった。落ちる瞬間に跳んだ。それで大地が割れるのをかわした。
そうして二人の上からだ。二つの首から虹色の炎を吐いた。それでだった。
二人を焼こうとする。しかしそれに対して。
高橋がだ。己の剣を上に向けて一閃させた。その剣身から。
黄色い雷が放たれ二条の炎のうち一条にぶつかり止めた。もう一条には。
工藤がだ。剣から岩を出してだ。それで防いでいた。その二人にだ。
怪物がだ。二つの口から言ってきた。
「やるな」
「喋れたのか」
「如何にも」
その通りだとだ。オルトロスは二人に対して言ってきたのである。
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