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戦国異伝

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第四十六話 寿桂尼その三


 そうしてだった。彼は言うのであった。
「その織田殿と手を結ぶべきだ」
「我が松平はですか」
「そうするべきですか」
「我等だけではだ」
 どうかというのだ。その松平だけではだ。
「武田に勝てるか」
「いえ、それは」
「とても」
 彼等もだ。そう問われるとであった。
 暗い顔になり口篭りだ。こう言うしかなかった。
「こちらはこれから遠江の半分を手に入れてもです」
「五十万石が精々です」
「それに対して武田は二百万石を超えようとしております」
「それでは」
「しかもじゃ」
 さらにだとだ。元康は言い加える。
「あの精兵と二十四将じゃな」
「敵としてはあまりにも手強いです」
「武田に競り合えるには我等は」
「無念ですが」
「しかし無念ではない」
 そこは違うとだ。元康は言い加えた。
「それはまた違う」
「違いますか」
「そうなのですか」
「敵を知り、己を知る」
 ここで言ったのはこのことだった。
「それは兵法の基本じゃ」
「だからですか」
「今は無念ではない」
「左様ですか」
「うむ、そうじゃ」
 また言う元康だった。
「武田は強い。我が松平より遙かにじゃ」
「そしてそれに対するにはですな」
「織田殿と手を結ぶべき」
「そうあるべきですな」
「しかもじゃ」
 さらにだというのだ。元康の言う言葉は多い。
「その織田殿にも舐められてはならぬ」
「対等の相手として手を結ぶ」
「そう御考えですか」
「誇りを見せるのじゃ」
 それもだ。あえてだというのだ。
「松平の誇りをじゃ。それにしても」
「それにしても?」
「殿、といいますと」
「一体何が」
「この松平という名じゃ」
 この名前についてだ。元康は話をはじめたのだった。
「これはただの地の名じゃからな」
「今後受領等に差し障りが出ますな」
「このままでは」
「わしは三河を治める」
 既に実質的に治めようとしている。だがそれだけではなくというのだ。
「しかし名実共になる為にはじゃ」
「松平の名のままでは不都合」
「左様ですな」
「それを何とかしようぞ」
 名の話にもなるのだった。元康も今度のことを考えていた。
 そして信長もだ。今度は信行からだ。こう言われていた。
 城中の茶室において茶を飲みながらだ。信行は兄に言うのであった。
「しかし。桶狭間で驚いたばかりだというのに」
「また驚いたというのか」
「左様です。寿桂尼殿とですか」
「うむ、会う」
 そうするとだ。信長は弟にも話す。
「それは知っておろう」
「はい、既に」
 知っていると答える信行だった。そのうえでまた話すのだった。 
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