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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第88話 立つ鳥跡を濁す

風と稟を家臣に加えてから、3ヵ月が過ぎました。

現在、私の保有兵力は黄巾の乱後に冀州で残留した兵5万5000に加え、兵3万が加わりました。

この兵3万の中には元黄巾賊の者が2万人含まれています。

黄巾賊の中で人格的に問題がなく、武官として一定の実力のあるものを選別して、彼らの希望を聞いた上で動員することにしました。

黄巾賊で私の軍に動員された者は実績に応じ賦役期間を最大で5年軽減し、実績と能力を加味して出世する機会を与えることにしました。

彼らは賦役の期間を満たしたら、除隊しても良いことになっています。

そのため、今回の烏桓族討伐は黄巾賊討伐時の兵だけで行うことにしています。

現在、私の元には騎兵1万がおり、彼らに新調した轡、鞍、鐙を既に支給しています。

彼らの調練は真希、泉、水蓮の3人に任せることにしました。

この騎兵の調練は人目を避け、常山郡の山奥を切り開いた調練場で行わせています。

この3人には調練とは別に、騎兵候補となる者を3000人選抜するように命じています。

この他に、凪、沙和に命じて、歩兵2万に長槍を持たせて、長槍の扱いに慣れさせるべく調練させています。

騎兵1万3000、歩兵1万に支給するコンパウンドボウの設計図を真桜に渡し、この弓の名は「滑車弓」と名前を変更しました。

真桜には弓の設計図だけでなく、模写した「伏儀図」、「神農本草経」も渡しました。

今後、兵器製造や耕作で森林伐採が進みすぎると将来の砂漠化、防衛面で問題が発生する可能性を考慮して、並行して植樹作業を賦役の中に組み込むことにしました。

燕山山脈が横断する鉅鹿郡と清河国で養蜂場を運営し専売にすることしました。

運営方法は私の能力を使用して、関係書籍を模写をし、清河国の書庫に保管してあります。

責任者は私で補佐に紗綾を据えました。

税収不足を補うためにもっと専売品を増やす必要がありますね。

この辺りは養蜂に適している以外に、石炭と石灰が豊富に産出できるので、これらを利用して、いずれは蒸気機関とセメントを製造しようと思っています。

責任者には揚羽と冥琳を据え、採掘のための下調べを始めています。

領地の経営方針もある程度落ち着いてきたので、冥琳、朱里、雛里と約束したことを実現することしました。

私が口伝で教えても良いのですが、私の時間が制約されるので竹巻に纏めることにしました。

これらは清河国の私の城の書庫に保管することになっています。

揚羽、冥琳、朱里、雛里の要望もあり、経済関係、軍事関係、政治関係、土木・治水・建築関係の書籍を中心に寝る間も惜しんで模写しています。

この模写の作業中は揚羽と冥琳が私の側で書き上がるのを待っています。

さながら、缶詰になった作家の心境です。





私が執筆地獄に気が滅入りそうになって、揚羽に休憩を願いでようとしたとき、誰かが執務室の扉を開いて入って来ました。

「正宗様、大変です。冀州入りしていた督郵が正宗様に面会を求めてきています」

美里が大慌てで言いました。

「何故、督郵が私に用があるのだ。その督郵の名前は何という」

私は気怠さを我慢して、美里に言いました。

「督郵の名前は許攸です。それに・・・・・・顔に酷い怪我をなさっています」

「許攸だと・・・・・・」

何で、許攸が冀州に督郵として赴任しているんです。

私が麗羽の夫だから胡麻をすりにしたのでしょうか。

「正宗様、その者は督郵の権威を傘に冀州の官吏より賄賂を徴収しております。正宗様の影響下の郡でも堂々と賄賂を要求しておりました。もちろん、正宗様の御名に傷がつかぬように要求は拒否させています。督郵の顔の怪我は何とも言えません」

「苦情を言いに来たという訳か?」

私は図々しい許攸の対応にうんざりな気分になりました。

「とにかく許攸に会うことにする。美里、許攸を謁見の間に通せ。揚羽と冥琳も同席してくれ」

冀州に来た督郵が私の元に来たことに、桃香の件で来たのではないか思いました。





「督郵、面を上げよ。私の元を訪ねるとは何か用なのか」

平伏する許攸は右腕に包帯を巻き、痛々しいものでした。

「私は今回、督郵を任じられた許攸と申します。劉車騎将軍につかれましては、ご面会の機会をいただき恐縮に存じます」

平伏していた許攸は顔を上げ、拱手をして挨拶をしました。

私は彼女の青あざだらけの顔を見て驚きました。

「その傷はどうしたのだ? 随分と手酷くやられたようだが」

私は表向き彼女を心配するように言いました。

なんとなく想像がついてきました。

多分、安喜県にはもう桃香達はいないでしょう。

「劉車騎将軍は劉玄徳を知っていらいますでしょうか? 私が中山郡安喜県へ監察に赴いた際、その者の配下に半殺しにされまして・・・・・・」

許攸は私と目を反らし、辛そうな表情をしました。

「それは不幸なことだな。私の元に来たのは、劉玄徳を推挙した私の責任を問うためという訳か?」

私は許攸の腹づもりが分かりましたが、冷静に言いました。

「滅相もございません。私は名声高き劉車騎将軍の御名を汚した不届き者のことをご報告に参った次第です」

許攸は私に態とらしい態度でうやうやしく言いました。

桃香の件を黙っておく代わりに、口止め料が欲しいのでしょう。

その手に乗るつもりはありません。

この女は既に賄賂を要求するという罪を犯しています。

発言の内容次第では、この場で処刑してやります。

「許攸、手間を取らせてたな。傷の治療代に1万銭を渡してやる」

私は「傷の治療代」という言葉を強調して言いました。

「劉車騎将軍、そのようなお心遣いは結構でございます。できれば、あなた様のお側に置いていただけないでしょうか?」

許攸は一物ある表情で私の瞳を見て言いました。

桃香の件をちらつかせて、自分を士官させて欲しいと言っているのでしょう。

「許攸、何故にお前を側に置かねばならぬ」

私は無表情で言いました。

「このことが宮中に報告されれば」

「冀州で賄賂を貢がせたお前が首が飛ぶということか?」

私は底冷えする声で許攸を睨みつけました。

「聞けば、お前は私が大守を勤める鉅鹿郡でも堂々と賄賂を要求していたそうだな」

「な、何を・・・・・・お、仰っているのか・・・・・・。りゅ、劉車騎将軍、こ、この私が朝廷に劉玄徳のことを報告してもよろしいのですか?」

許攸は私の態度に顔が恐怖で引きつっていました。

「ほざくな! やってみるが良い。お前の悪事は斬首ものだ。お前が私に舐めた真似をするというなら、私にも考えがあるぞ」

私は許攸を睨みながら、濃厚な殺気を放ちました。

「りゅ、劉車騎将軍・・・・・・。わ、私の勘違いでございました・・・・・・。こ、ここれにて失礼させていただきます」

許攸はカタカタと肩を震わせて、辛そうに頭を下げ去っていきました。

「正宗様、許攸には監視を付けて置きます」

揚羽は許攸の立ち去るのを確認すると、私を見て言いました。

「それでいい。もしも、朝廷に今回の一件を報告したり、麗羽に脅迫するような真似をしたら」

「始末すればよろしいのですね」

揚羽は私に怜悧な笑みを浮かべ言いました。

私は彼女の瞳を見て、うなずきました。
 
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