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戦国異伝

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第四十五話 幸村先陣その七


「何故兵達をここまで連れて来た」
「先程も申し上げましたが戦の為ではございませぬ」
 そのことはだ。また否定するのだった。
 否定してからだ。彼は信玄にあらためて話した。
「しかし兵達には帰る場所があります」
「駿河、そして遠江だな」
「左様です。兵達を国に帰す為に」
「今ここにおるか」
「左様でございます。兵達は武田殿にお渡しします」
「して。それぞれの町や村に帰せというか」
「そのことを御願い申す」
 雪斎は信玄の目を見据えて。願いを述べた。
「それが拙僧の願いであります」
「わかった」
 信玄はまずだ。こう雪斎に述べた。
「ではじゃ。その兵達受け取ろう」
「有り難き御言葉」
「何、武田にとってもよいことじゃ」
 信玄は不敵に笑ってだ。雪斎に返した。
 雪斎もその言葉を受けてだ。そうして応えるのだった。
「その兵達が武田のものになるのじゃからな」
「くれぐれも故郷に」
「わかっておる。兵は民よ」
 そうだというのだ。兵はだ。そのまま民だというのだ。
「その民を粗末にする者は天から報いを受けるわ」
「では」
「今川殿の宝確かに受け取った」
 毅然とした声だった。そこには一点の曇りもない。
 そしてその曇りのない声でだ。信玄はさらに述べた。
「粗末に扱うことはない」
「有り難うございます」
「してじゃ」
 今度はだ信玄から言うのだった。
 雪斎を見据えてだ。こう言ってみせたのだ。
「雪斎殿、御主はこれからどうされる」
「拙僧ですか」
「武田に来るつもりはあるまい」
 それはだ。絶対にないというのだ。
「そうじゃな」
「失礼ながら」
「ははは、それはよい」 
 武田の臣にならないのはだ。いいというのだ。
「御主には御主の考えがある。わしはそのことについて言うつもりはない」
「左様ですか」
「では今川に行くか」
「そうさせてもらいます」
 こう言うのである。
「尾張にいる義元様と氏真様の下へ」
「捉われの主の下にか」
「捉われになろうとも悔いはありませぬ」
 雪斎の言葉はあくまで澄んでいる。そこには一点の曇りもない。
 その曇りのない言葉でだ。彼は信玄に話すのだった。
「ですから」
「見事じゃ」
 信玄はその彼を褒め称える言葉さえ出してみせた。
「その心、見事じゃ」
「見事ですか」
「では行くのじゃ」
「尾張に」
「わしは御主達のその背を見送らせてもらおう」
 決してだ。手出しはしないというのだ。
 話がまた決まった。そのうでだ。
 信玄も雪斎もあることについて話そうとした。しかしここでだ。
 二人のところにだ。一人の白髪の臣が来た。信玄の重臣の一人でもあり姉婿でもある穴山梅雪だ。その彼が急に来て言うのであった。
「御館様、尾張からです」
「織田からか」
「はい、織田殿からです」
 その名を聞いてだ。雪斎の目が動いた。 
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