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戦国異伝

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第四十五話 幸村先陣その三


 信玄はこんなことを話してからだ。十勇士達も先陣に加えることを決めたのだった。その話が決まってだ。一旦一同主の前から去ることとなった。
 幸村はそのまま一人館を出ようとした。しかしその彼にだ。
 一度見たら忘れられぬ、そこまでの流麗な顔立ちの男が隣に来てだ。こう言ってきたのだった。
「よいか」
「源五郎殿」
 幸村はその美麗な男の名前を言った。この美麗な男こそ高坂昌信だ。武田二十四将の中でもとりわけ秀でた者の一人とされるだ。智勇兼備の者である。人格温和なことでも知られている。
 その彼がだ。優美な微笑みを浮かべてだ。幸村に話すのであった。
「緊張しているか」
「はい」
 その通りだとだ。幸村も高坂に答える。今二人は館の門のところにいる。
 その場においてだ。幸村は答えたのだった。
「それは否定できませぬ」
「そうだな。それがしも初陣とはじめての先陣の時はそうだった」
「源五郎殿もですか」
「誰もが同じだ」
 こうだ。高坂は幸村に話す。
「それはな。どうしてもそうなるものだ」
「緊張してしまいますか」
「そうだ。しかし安心するのだ」
「安心してよいのですか」
「御館様の人を見る目は確かだ」
 彼等の主信玄のその目はだ。間違いないというのだ。
 だからこそだというのだった。幸村に対して。
「その場、その時に相応しい者を選ばれる」
「ではそれがしは」
「そうだ。まさにだ」
 先陣に相応しい者だというのだ。
「必ずや果たしてくれる」
「そう仰るのなら」
「励むことだ」
 穏やかな笑みを浮かべて幸村に告げる。
「御主は必ず大きな者になる」
「なるでしょうか」
「それがしが思うだけではない」
 やはりだ。ここでも主の話が出たのだった。
「他の方々もだし何よりもだ」
「御館様がですか」
「御館様は御主をこのうえなく見込んでおられる」
 信玄のその目がだ。幸村を見込んでそのうえで任せているというのだ。
 その話をしてだった。彼等は門を出た。そうして館の外を出てだった。
 まただ。高坂が言うのだった。
「だからこそじゃ」
「その為の先陣ですか」
「御期待に応えたいな」
「無論です」 
 幸村は熱い声で高坂に応えた。
「そうせずにいられません」
「それでよい。どうやら御主は」
「それがしは?」
「大事を為す者だな」
 幸村をだ。こう評するのだった。
「それもとてつもなくな」
「大事をですか」
「天下は御館様が治められる」
 彼等にしてみればそれ以外は考えられなかった。天下を治めるのは彼等の主である信玄だ。彼以外にそれは果たせぬと確信しているのだ。
 それでだ。幸村が何をするかというとだ。高坂はそのことについてはこう言うのだった。
「天下一の侍になるか」
「天下一の侍といいますと」
「うむ、武勇だけでなくだ」
 それだけではないというのだ。侍を侍たらしめているそれだけではとだ。
「智略、そして人格もだ」
「それがしがそうした者になると」
「なるであろう。御主に比肩できるのは」
 それは誰か。高坂はそのことも話した。 
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