戦国異伝
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第四十四話 元康の決断その十三
「ですから。我等が織田殿にとって益のある相手でなければ」
「手を結ぶ筈もない」
「その通りです」
「わかった。それではじゃ」
どうするか。元康は言った。
「まずは三河を手中に収める」
「完全にですか」
「そしてそのうえで、ですか」
「遠江にも」
「兵を進める」
やはりだ。その国にもだというのだ。
しかもだ。それだけでなくというのだった。
元康はだ。さらに述べた。
「武田と国を接しても臆するな」
「武田の軍勢が前にいてもですか」
「決してですか」
「そうじゃ。決して退くな」
こうだ。家臣達に強く言うのである。
「戦になろうともな」
「それでも退かずですか」
「相手を見据える」
「そうされよと」
「必要とあらば戦もせよ」
元康はだ。こうまで言った。
「よいな。そうせよ」
「何と、戦もですか」
「その武田と」
「それも厭うなというのですか」
「起こっても小競り合いじゃ」
元康もだ。読みを見せた。
「武田も駿河と遠江の半分を手に入れるまでが精一杯じゃ」
「とても我等と本格的に戦をする余力はない」
「今はですか」
「だからよ。果敢に出よ」
ならばだというのだ。
「無論平時からそうじゃがな」
「平時からもですか」
「武田に対して強気でいよと」
「そう仰いますか」
「強気に出ねば飲まれる」
そうなるというのだ。
「今の世はな」
「はい、その通りです」
やや年配のだ。皺の多い顔の男が言ってきた。
「殿、やはり今はです」
「小平次か」
酒井忠次だ。元康の腹心の一人である。その彼も言うのであった。
「舐められてはなりません」
「武田に。そして」
「織田殿にもです」
そのだ。手を結ぶべきという織田にもだというのだ。
「相手は見ていますので」
「だからだな」
「今の世は舐められては終わりです」
酒井の言葉は強い。それは絶対だという口調であった。
その口調でだ。彼は主に話すのだった。
「ですから」
「わかっておる。だからこそじゃ」
元康もあらためて言うのであった。
「皆の者、よいな」
「はい」
「それではですか」
「そうじゃ。我等松平はこれより三河武士の気概を見せる」
そのだ。勇敢な三河武士のそれをだというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
こうしてだった。元康は決意を固めたのだった。そしてその決意を以てだ。彼は三河に再びだ。松平の旗を立てたのであった。
第四十四話 完
2011・6・2
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