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戦国異伝

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第四十四話 元康の決断その十


「この場合は今日の家臣じゃな」
「その家臣をですか」
「敵であった者でも」
「そうじゃ。何の関係もない」
 やはりだ。何ともないというのだ。
 そうした話をしてだった。信長は己の決意を話すのだった。
「天下の為に働いてもらうだけじゃ」
「しかしです」
 ここで怪訝な声をあげたのは佐々だった。
「そうした者は謀反を起こすのでは」
「謀反か」
「はい、かつて敵であった者はです」
 裏切るのではないかというのだ。これは当然の危惧だった。
 佐々にしてもだ。そのことは危惧して信長に話すのだった。
「やはり裏切りが」
「それは誰でもじゃ」
「誰でもですか」
「そうじゃ。誰でも謀反を起こすわ」
 こう言ってだ。信長はここで顔を曇らせてだった。さらに話した。
「あの津々木の如き者がおればな」
「あの者ですか」
 その名前を聞いてだ。信行もその顔を曇らせた。
 それでだ。今度は彼が言うのだった。
「確かに。ああした者がおれば」
「誰でも謀反を起こすな」
「迂闊でした」
 信行のその顔に悔恨が浮かび上がった。
「まさか。操られるとは」
「御主が操られるのじゃ。誰でも操られる」
 そうなってしまうというのだ。信長はそれだけ津々木という男を警戒していた。
 そのうえでだ。彼はさらに話す。
「本人にその気がなくともじゃ」
「あの妖しい術で操られていく」
「あの男はそれだけ危険ですか」
「次に見つければ斬る」
 鋭い顔で言う信長だった。
「このわしの手でじゃ」
「そうされますか」
「殿御自身であの者を斬られますか」
「そうされると」
「そうでなければ気が済まぬ」
 信長のだ。偽らざる本音だった。
「あの者はじゃ」
「一体どの国に逃げたのか」
「尾張にはいないようですし」
「まさに煙の様に消えてしまいましたな」
「まるで妖術です」
「妖術。わしは信じておらんかった」
 信長はそうした類の話を信じない性格だ。しかしそれでもだった。
 津々木を見てだ。その考えがどうなったか述べるのであった。
「しかしあの術はどう考てもじゃ」
「妖術ですな」
「あれはまさにそれですな」
「普通の術ではありませぬ」
「忍術にしても異様じゃ」
 それでもないというのだ。
「やはり。あれは妖術じゃ」
「その妖術で人を惑わしですな」
「世を乱す」
「それがあの者ですな」
「用心せねばな」
 信長は津々木についてもそんなことを話してだ。彼の行方を捜し続けてもいた。そうしてそんな話をしながらだ。彼はこれからの流れを見つつだった。
 伊勢への調略を進めていきだった。次の手を着々と打っていた。それからだった。
 その伊勢でだ。次第にその効き目が出て来ていた。
 国人達がだ。次第にだった。
 尾張から来た者達にだ。こう答えていた。 
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