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戦国異伝

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第四十四話 元康の決断その四


「陣は縦に伸びていましたが今川殿は周りへの物見も緩やかだったようです」
「戦を先陣だけに任せていてですな」
「行軍を続けていれば陣は伸びます」
 それならばだというのだ。
「それなのに物見をあまり出さなかったならば。横を衝かれるのは必定です」
「しかもそれが敵の国ならば」
「それならばああなるのは見えていました」
 明智はここまでの話を淡々と話した。
「全てはその結果です」
「左様でござるか」
「そうです。ただ」
「ただ?」
「それがしも予想しなかったことがあります」
 それが何か。明智は考える顔で話した。
「まさか。義元殿と嫡男の氏真殿が共に虜になるとは」
「あのことですな」
「このことはかなり大きいです」
 明智の言葉が強くなる。
「今川は今家を治める者がいません」
「隙ができますな」
「そしてその隙を衝きです」
 どうなるかというのだ。それは。
「駿河と遠江に武田殿が来られるでしょう」
「あの甲斐のですか」
「はい、武田殿の嫡男義信殿の奥方は今川殿の娘御」
 この縁戚を口実にしてだ。武田は駿河に入るというのだ。主がいなくなれば縁戚の者がその代わりに入る、戦国でも常識のことである。
 このことを指摘してだ。明智はさらに話した。
「それにより駿河と遠江の大半が武田殿のものとなります」
「あの駿河が」
「遠江も大半がそうなってしまうでしょう」
「武田殿にとっては奇貨ですな」
「はい、武田殿は甲斐、信濃に加えてそうした国々を手に入れられます」
「天下で屈指の勢力になられますな」
「そうです。そしてです」
 明智はここで話を変えだ。こう話すのだった。
「織田殿もです」
「その織田殿も」
「最早織田殿をうつけなどという者はおりません」
「そうですな。織田殿の名声はかなりのものになりました」
「それは天下に知れ渡りました」
 このこと自体が非常に大きいというのだ。
「それは無論伊勢や美濃にもです」
「その二国にも」
「まず伊勢です」
 その国だというのだ。尾張の西にあるその国だ。
「あの国の国人達は織田殿に次々とつくでしょう」
「そうして伊勢は」
「瞬く間に織田殿のものとなります」
 そうなるとだ。明智は読んでいるのだった。
「さすればです」
「伊勢の次は」
「美濃です」
 その国だというのだ。
「そこになります」
「明智殿所縁のあの国ですか」
「そうですね。私の所縁になりますね」
 美濃について話すとだ。自然にだった。
 明智はその顔を綻ばさせてだ。こう細川に話すのだった。
「思えば懐かしいです」
「そうでしょう。故郷なのですから」
「今はこうして公方様にお仕えしていますが」
「朝倉家にも仕えていましたな」
 明智も各家を転々としているのだ。この時代ではよくあることだ。 
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