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戦国異伝

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第四十三話 清洲に帰りその十二


「あの者達だけはです」
「そうじゃな。わしもじゃ」
「本願寺と揉めることはですな」
「避ける。出来るだけな」
 そう考えていた。本気でだ。
 それでもだ。彼はここでこうも話すのだった。
「しかしそれでもじゃ」
「それでもですか」
「わしの天下統一への妨げになるのならばじゃ」
「戦われますか」
「そのつもりじゃ」
 こうだ。確かな顔と声で話すのだった。
「本願寺といえどもな」
「無謀でございます」
 平手はすぐにこう返した。
「幾ら何でもです」
「そうじゃな。わしとてあの者達と戦はしたくない」
「それでもなのですか」
「天下の為にはどの様な者といえどもじゃ」
「本願寺と戦をするならば」
 どうなるか。平手は言わずにはいられなかった。
「我等は朝倉の様になりかねませんが」
「あの様な泥沼になるな」
「そうなってもですか」
「うむ、戦う」
「あくまでなのですか」
「そうしなければならぬならばそうする」
 信長はまた言う。
「徹底的にじゃ」
「やられるからにはですか」
「確かに門徒は多い」
 そのことは信長も認める。
「しかしじゃ。それでもじゃ」
「それでもとは」
「門徒達もじゃ。本願寺がよいかわしがよいか」
「殿がよいかですか」
「そのことを選ばさせてみよう」
 信長の顔が笑みになった。不敵な笑みにだ。
 そしてその不敵な笑みでだ。彼は今平手に話すのだった。
「その為にも政をするぞ」
「善政ですな」
「わしの政は誠の意味で民の為、天下の為になる政じゃ」
 そこに己は入れないのだった。信長の政はそうしたものだった。
「その政を見せてじゃ。あの者達はどうするかじゃ」
「つまり民の心を掴むと」
「民の心は即ち天下の心じゃ」
 民があるからこそ天下がある、そうだともだ。言葉の中に入れていた。
「それを掴めずしてどうして天下を掴めるか」
「ですか。では殿」
「うむ」
「この爺、殿が本願寺と戦をすることになろうとも」
「ついてくるか」
「無論です。しかし」
 ここで平手の言葉が変わった。こう言うのだった。
「あの時切腹しなかったのはよかったです」
「何じゃ、本気で腹を切るつもりじゃったか」
「まさか。大殿の位牌に灰を投げ付けられるなぞ」
 そのことをだ。ここであらためて話すのである。
「思いも寄りません」
「ははは、爺も驚いたか」
「呆れました。これは駄目だと思いました」
「しかしあれでわしを侮る連中が一斉に焙り出されたな」
「そしてそれをでしたな」
「そうじゃ。すぐに片っ端から叩き潰した」
 尾張統一の時だ。信長が今に至る大事な節目の話である。
「あれはあえてああしたからのう」
「敵を欺くには、だったのですな」
「というよりかわしの家臣であれで呆れたのは爺だけぞ」
 信長は苦笑いをしながら平手に話す。 
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