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戦国異伝

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第四十二話 雨の中の戦その六


「そうしてみるのじゃ」
「それでは」
「参るぞ」
 まずはだ。義元の方からだった。
 雨でぬかるんだ、いや最早池となっている場をだ。すり足で動いてだった。
 毛利に迫る。そのうえで上から彼を斬ろうとする。
 しかしだった。その剣撃はだ。
 毛利の剣により防がれた。毛利の動きもまた速かった。
「むっ、今のをか」
「どうやら思った以上の腕の方ですな」
 毛利もだ。義元のその剣の腕を見抜いたのだった。
「公卿の剣ではありませぬ」
「何度も言うが麿も武門じゃ」
 麿という一人称を使っていてもだ。
「刀は嗜みじゃ」
「左様ですな。確かに」
 こうだ。両者は鍔迫り合いをしながら話す。
「それはその通りです」
「さすればじゃ」
 ここでまた言う義元だった。
 彼は一旦飛び退いた。やはり動きは速い。その鈍重そうな体格からは想像できないまでに俊敏だ。その動きで間合いを離してであった。
 義元は右に動いた。そのうえでだ。
 毛利の脇に入ろうとする。毛利もそれを見て言う。
「成程、次はそうして」
「さて。今度はどうするのじゃ?」
「無論。お受けします」
 毛利も話してだ。義元に顔を向けてだ。
 正面に対峙してだ。そしてであった。
 今度は毛利がだ。先に動いた。
 彼は身体を屈めだ。狼の様に突き進んで来たのだ。
「むっ!?」
「さて、これはどうされますか」
 こう言ってだ。義元に突っ込むのだ。 
 身体は腰の高さ程もなくなっている。その高さで両手に刀を持ちだ。
 毛利は義元に突き進みだ。それでだった。
 その両手に持っている刀を下から上にだ。思い切り突き上げた。
「なっ、下から上にじゃと」
 義元はその下から来る刀の動きにだ。思わず目を丸くさせた。
「刀が」
「さあ、お覚悟を」
 毛利は刀を突き出しながら言う。そしてだった。
 刀がだ。義元を打った。
 下からの一撃はかなりの衝撃だった。義元はそれを胸で受けた。
 鎧はだ。貫かれなかった。かなりの業物であり毛利の一撃さえ防いだ。
 だが衝撃までは防げずだ。それでだった。
 背中から倒れる。刀は手から離れた。その義元を見てだ。
 毛利は会心の笑みを浮かべてだ。こう言うのだった。
「勝負ありですな」
「む、無念・・・・・・」
 今はだ。義元もこう言うしかなかった。
「まさかそう来るとは」
「では義元殿」
「覚悟はできておる」
 実際にだ。観念している言葉だった。
「麿の首を討て」
「その首をですな」
「そうじゃ。そして手柄にするのじゃ」
 毛利に対して告げる。
「さすれば褒美は思いのままぞ」
「左様、褒美は貰い受けまする」
 それはだ。毛利も狙っていた。
 しかしその褒美についてだ。彼は笑って義元に話した。
「ただ。それは」
「それは。何じゃ」
「義元殿の首でありませぬ」
 それではないというのだ。 
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