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戦国異伝

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第四十二話 雨の中の戦その五


「ではそなたの名を聞こう」
「それがしの名ですな」
「うむ。何という」
 己の前でだ。馬から降りたその者に問うのだった。若武者は馬に乗っていない氏真に合わせてわざわざ下馬してきた。そのうえで対等の勝負を挑むのは明らかだった。
「その名は」
「森勝三郎長可」
 若武者は名乗った。
「それがそれがしの名でござる」
「ふむ。では得物は」
「これでござる」
 その手にしている十字槍を構えてみせる。まさにこれがだというのだ。
「この槍で御相手致します」
「見事な槍じゃな」
 氏真はその十字槍の輝きを見てだ。すぐにそのことを見抜いた。
 そのうえでだ。彼も刀を両手に持ち構えてであった。
 そうしてだ。森長可に対して述べた。
「では。これより」
「勝負をはじめましょう」
 こうしてであった。両者は闘いに入った。刀と槍がぶつかり合いだ。雨の中で銀の煌きは弾け飛ぶ。
 両者が闘うそのすぐ近くではだ。義元が。
 織田の足軽達に囲まれていた。しかしだ。
 彼もまた刀を振るいだ。彼等を寄せ付けない。そのうえでこう言うのであった。
「麿を誰だと思うておる」
 こう言うのである。
「今川の主今川義元なるぞ。そうおいそれとは討てぬぞ」
「むう、思った以上にしぶといな」
「馬に乗るのが下手だというから造作もないと思っていたが」
「これが中々」
「強いではないか」
「うむ、手強いぞ」
 足軽達もだ。そのことを認めるしかなかった。
 とにかく義元は強かった。それは彼等の予想以上だった。
 彼等の槍もことごとく払い寄せ付けない。しかしだ。
 それならばだとだ。彼等は刀を抜いている。だが義元はそうなっても彼等を引き付けさせない。彼もまたそれなりの強さがあった。
 その義元を見てだ。足軽達は話すのだった。
「そういえば蹴鞠の達人と言うが」
「身体は動かしておるのか」
「そうなのか」
「麿とても武の者ぞ」 
 彼等にもこう言う義元だった。
「刀は使うわ」
「ううむ、これではだ」
「思うようにはいかぬな」
「折角こうして取り囲んだというのに」
「これでは手柄が」
「ほっほっほ、手柄は諦めよ」
 義元もだ。焦る彼等に笑ってみせた。
 そのうえでだ。こう言うのであった。
「麿の首は安くはないぞ」
「左様ですな」
 彼のその言葉に応える形で、であった。
 毛利秀高が来た。そのうえでだ。
 義元の前に来てだ。こう名乗るのであった。
「織田家の臣、毛利新助秀高でござる」
「毛利と申すのか」
「そうです。宜しければお見知りおきを」
「そなたが麿の相手をするというのか」
「それがしで宜しいでしょうか」
「足軽達より遥かに腕が立つようじゃな」
 その身のこなしを見てだ。義元はすぐにそのことを察した。
 そのうえでだ。毛利にこうも話した。
「よいじゃろう。それでは麿もじゃ」
「御相手して頂けますか」
「さて、麿の首取れるものなら取ってみよ」
 悠然とした構えを取ってだ。義元は言った。 
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