戦国異伝
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第四十二話 雨の中の戦その一
第四十二話 雨の中の戦
信長率いる織田軍二千はだ。まさに一気にであった。
今川の本陣に突き進む。彼等のその姿は雨の中で見えない。しかも突き進んでいてもだ。
豪雨の音でだ。彼等の馬や足の音も聞こえない。何もかもがだった。
その中でだ。信長の声だけが聞こえる。彼は軍の先頭にいる。
「よいな、これよりじゃ」
「今川の本陣に入り」
「そのうえで、ですね」
「そうじゃ。勝つ」
今はだ。一言だった。
「よいな。そうするぞ」
「そして今川殿はですね」
「首を取る。そして狙えれば」
「生け捕りにですね」
「また言うが少しでも余裕がなければ諦めよ」
生け捕りにするというのはだ。そうしろというのだ。
「よいな。少しでもじゃ」
「わかりました。それではです」
「今川殿はそうします」
「そのうえで、ですね」
「まずは勝つことを考えよ」
それがだ。至上の命題だというのだ。信長はその勝ちを見てだ。義元を生け捕りにすることも首を取ることも話したのである。
「一度もじゃ」
「ではそうします」
「何があろうともまずはです」
「勝ちを手に入れましょう」
「そういうことじゃ」
こう話したうえで、であった。信長はさらに突き進んでいく。そして遂にだった。
本陣が見えた。白い幕が雨で濡れて今にも崩れ落ちそうである。守っている兵達もだ。やけに少なかった。
「数が少ないですな」
「殆んどおりませぬな」
「雨を避けておるな」
「はい、どうやら」
「その様で」
「好都合じゃ」
それを見てだ。信長は言った。
そのまま駆ける。そうしてだ。
刀を手に。こう叫んだ。
「勝ちは我等のものぞ!」
「はっ、それでは!」
「今こそ!」
「今川を!」
「法螺貝を鳴らす必要はない!」
信長はそれはいいとした。
「よいな。我等の鎧兜は青ぞ」
「そして旗も」
「槍もですな」
「青くない者だけを狙え」
それが即ちだ。今川の者というのだ。
それを言ってだ。信長はさらにであった。
「そして。目指すはじゃ」
「今川義元殿」
「あの御仁を」
「そこまでわかっていればよい」
信長は確かな声で述べた。
「さすればじゃ」
「畏まりました」
「では」
こうしてであった。織田二千騎は一直線に今川の本陣に切り入った。まずはその白い陣幕が破られ倒されていく。それを見てだ。
今川の者達がだ。今更ながらに言う。
「むっ、何じゃ!?」
「何があった?」
「兵達が暴れておるのか」
中にはだ。こうした呑気な言葉も出て来た。
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