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戦国異伝

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第四十一話 奇襲その八


「それで機嫌を取りにじゃな」
「その様です」
「その様なことをせずともじゃ」
 義元は上機嫌なまま話していく。
「麿は寛容じゃがのう」
「そうですな。父上は民に関しては」
「大事にせねばいかん」
 元々戦よりも政の者だ。それならばだった。
「民を粗末にする者に国を治める資格はない」
「はい、そうですね」
「それは守らねばならん」
「ですな。確かに」
「そなたもわかっておるな」
 我が子への言葉だった。
「そのことは」
「はい、それは」
「それがわからぬ者は天下に何かをしてはならぬ」
 また言うのだった。
「ましてや天下を治めるなぞはじゃ」
「なりませぬな」
「六代の将軍であったあの方を思い出すのじゃ」
 足利義教だ。暴虐の人物と言われている。
「あまりにも苛烈で無慈悲であったのう」
「あの方ですな」
「そうじゃ。公方様ではあるが」
 本来は言うことも憚れるがだ。それでもあえてだというのだ。
「あの方の暴虐はあまりじゃったのう」
「左様ですな。あれは無体にも程があるかと」
「ああしたことをしてはじゃ」
 どうかというのだ。その将軍の様なことをしてはだ。
「やがて家臣からも民からも見放される」
「そうなるのは必定でございますな」
「うむ、第一に天からも見放される」
「そうなればしまいですな」
「何もかものう。だからよ」
「国の主は民を大事に扱うべきと」
 将軍義教の暴虐は守護や直臣、寺社や女房達に及ぶものだった。しかしそれがあまりに酷くだ。民も彼を至極恐れていたのである。
 そうなってはならぬとだ。義元は話すのである。氏真もそれを聞いている。
「そのことを肝に銘じて」
「何ごともしておくのじゃ」
「わかりました」
「さて、では今はじゃ」
 どうするかというのであった。義元は真面目な顔から明るい顔になってだ。そうしてそのうえでこう周りに話した。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「今より酒をですな」
「飲みますか」
「勝ちの前祝いじゃ」
 それでだ。飲むというのである。
「よいな。楽しくやろうぞ」
「では和歌も歌い」
「連歌もされますか」
「よいのう」
 和歌や連歌と聞いてだ。余計にだった。
 義元は機嫌をよくさせた。彼は京文化が好きでだ。和歌や連歌といったものは大好きなのだ。無論他のものもかなり愛好している。
 そのうえでだ。彼はこう周りに話した。
「では連歌をやろうぞ」
「飲みながらですな」
「そのうえで」
「そうじゃ。歌えなかった者は罰としてそこで杯を空ける」
 連歌の遊びでの罰をだ。そのまま入れているのだ。
「そうするぞ」
「ではそのうえで」
「酒を楽しみつつ連歌としますか」
「これより」
「そうするとしよう。さて、織田を従えさせたならば」
 その場合についてだ。義元は機嫌のいいまま話していく。
「あの家は茶をよくしておるというが」
「そうですな。あのおおうつけはかなり茶に凝っておる様です」
「その様です」
「では清洲に入れば茶を楽しむとしよう」
 まさにだ。その茶をだというのだ。 
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