戦国異伝
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第四十一話 奇襲その五
「嫡男の氏真じゃな」
「その二人ですか」
「捕らえるべきは」
「他は気にせず首を取れ」
二人以外の主だった将はそうせよというのだ。
「よいな」
「嫡男の氏真殿もですか」
「生け捕りにせよ、ですか」
「余裕があれば」
「当主だけでなく嫡男もおるとはな」
それがだ。どうかというのだ。
「両方捕まえればそれで終わりじゃ」
「今川がですな」
「それにより」
「うむ、確かに家にはまだ跡を継げる者がおる」
今川家にも人がいる。しかしだというのだ。
「だが。それでもじゃ」
「当主と嫡男の双方に何かあれば家はですか」
「危うくなりますか」
「そうじゃ。一度に何かあれば」
どうかと話すのだ。信長はそこまで見ていた。
「それで混乱が生じる」
「そしてその隙にですか」
「他の家に攻められる」
「そうなりますか」
「攻められるだけではない」
それだけではないというのだ。
「家の中でも騒動が起こるのだ」
「どちらにしてもですか」
「家には騒動が起こりますか」
「双方を失えば」
「当主と嫡男に」
「若し今川の双方がそうなれば」
捕らえられるか首を取られるか、そうなってしまえばというのだ。
「おそらく武田が来る」
「武田家がですか」
「あの家が甲斐から来ます」
「そうなりますか」
「武田の嫡男である義信殿の正妻はあれではないか」
信長は話す。政の話をだ。
「義元の娘じゃな」
「ではそれを口実にですか」
「駿河に攻め入る」
「そうしてきますか」
「うむ、そうなる」
信長はそこまで読んでいた。彼の目はまさに千里眼だった。
「実質主のいなくなった駿河にな」
「では今川殿を倒せば周りが動きますか」
「それもありますか」
「そうじゃ。そして我等もじゃ」
織田家もだというのだ。
「大きく動くぞ」
「では。その動く為に」
「今よりですね」
「行きますか」
「戦の場に」
「うむ、出羽よ」
ここで梁田を呼ぶ。彼に声をかけたのだ。
「今川の本陣は何処にある」
「桶狭間です」
そこにあるとだ。梁田はすぐに答えた。
「あの場所に陣を張っております」
「ははは、やはりあそこか」
桶狭間と聞いてだった。信長は顔を崩して笑った。そしてそのうえでだ。彼はその笑顔でだ。こう言うのだった。
「あそこに本陣を張ったか」
「桶狭間といえば」
「あの山の間にあるですか」
「あの狭い場所ですな」
「そうじゃ。あの場所だろうと思っておった」
そのだ。桶狭間だというのだ。
「あそこしかないからのう」
「確かに。あの場所はあの辺りでは休むのに好都合です」
「あそこ以外にはこれといって休むのに相応しい場所はありません」
「では。あそこにですか」
「今川殿は入りましたか」
「そうじゃ。あそこに入ればだ」
どうなのか。それも話す信長だった。
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