戦国異伝
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第四十一話 奇襲その一
第四十一話 奇襲
鷲津ではだ。相変わらずであった。
砦に篭もる織田の者達は戦い抜いている。その強さは。
「強いのう」
「全くじゃ」
「何をしてもその都度返してきおる」
三河の兵達がだ。呆れながら言うのである。
彼等は砦を二重三重に取り囲んでいる。しかしだった。
砦は一向に陥ちる気配はなかった。全くだった。
「最初はすぐに陥ちると思ったがのう」
「これでは一週間は持ち堪えるぞ」
「いや、それ以上だろ」
「このままではな」
こうだ。彼等も話すのだった。
「この状況では中々陥ちんぞ」
「どうしたものか」
「その間に織田の援軍が来ればな」
「厄介なことになるぞ」
その危惧を感じていた。夜囲みながらだ。そしてだ。
それは元康も同じだった。彼は今は己の家臣達と共にいた。そのうえでだ。
夜の陣中でだ。彼は言うのだった。その顔を篝火が照らし出している。その炎の灯りを頼りにだ。彼は家臣達も見ているのである。
見ればどの顔も知っている。そしてしかと彼を見ている。どの目にも曇りはない。そこに松平家があると言ってもよかった。
その松平家の中でだ。彼は言うのである。
「鷲津は必ず陥とす」
「はい、そうですね」
「そうされなければです」
「我等松平の名が廃ります」
家臣達もだ。口々に言うのだった。そしてだ。
「殿、ここはです」
「砦の一方に集中的に攻撃を仕掛けです」
「そのうえで突破しましょう」
「そうしては如何でしょうか」
「いや、それはだ」
しかしだ。元康はだ。彼等のその言葉を容れなかった。
そしてだ。こう言うのだった。
「それをすれば兵達がだ」
「多く倒れる」
「そうなると」
「戦はこの砦だけではないのだ」
彼は先も見ていた。さらに先をだ。
「ここで無理をすべきではない」
「だからですか」
「ここはまだ一気には攻めない」
「左様ですか」
「都まで行くのだ」
元康は鷲津だけを見てはいなかった。そこから先も見ていた。
そしてその先を見据えながらだ。彼は己の家臣達に話したのである。
「だからだ」
「ここで損害を出す訳にはいかない」
「ではここは」
「どうされますか」
「こうして囲んでいればたがて兵糧が尽きる」
元康が言うのはこれだった。
「さすれば砦は自然と陥ちるな」
「はい、食うものがなくなればです」
「人は何もできませぬ」
「ではその様にですか」
「ここは」
「そうする」
また言う元康だった。
「待つことにしよう」
「ですが殿」
家臣の一人が元康に問うてきた。
「今川様がそれでは」
「御怒りになられるというのだな」
「はい、それは大丈夫でしょうか」
「安心するのだ。既に雪斎殿とは話をしてある」
もう一人の先陣にして他ならぬ義元の師のだ。彼にだというのだ。
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