戦国異伝
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第四十話 桶狭間へ九
それから先についてはだ。こう言うのであった。
「だが。問題はじゃ」
「それからですか」
「上洛して都とその近辺の国々まで手中に収め」
「それからですか」
「そこまで力を伸張させれば」
また言ってみせる元就だった。
「天下は手に入れられると思うな」
「はい、そう思います」
「おそらく兵は十万を優に越えますし」
「持っている力も尋常なものではなくなります」
「さすれば」
「力を手に入れてもじゃ」
それだけではない。そうした口調だった。
「それでもそれは武家の力じゃ」
「といいますと」
「朝廷ですか」
「そちらですか」
「朝廷についてはじゃ」
元就はその存在についてはだった。
あまり深刻なものを見ずにだ。己の家臣達に話した。
「織田はそれ程困らぬじゃろうな」
「あの木曾義仲が苦しめられた朝廷にはですか」
「大丈夫なのですか」
「織田家は前々より朝廷に寄進もしておる」
信長の父信秀の代からだ。何かあれば寄進をしているのだ。その為織田家は朝廷とは中々親密な関係にあるのである。いい意味でだ。
「そして朝廷のことも知っておる」
「そういえば織田家は最初は神主でしたな」
「それがはじまりだった」
そのことは元就も知っていた。織田家のはじまりもだ。
「神社は朝廷の縁じゃからな」
「ですな。朝廷はその元締め」
「それが皇室ですから」
「確かに朝廷の勝手は許さぬだろう」
この辺りは武門としてだった。鎌倉幕府や室町幕府と同じだった。もっとも室町幕府は次第に朝廷、そして貴族達と同化していったが。
「だが。それでもだ」
「朝廷を知っており」
「そして親密でもある」
「さすればですか」
「朝廷には困りませんか」
「そうじゃ。ただしじゃ」
朝廷には安心できてもだ。それでもだというのだ。
「その他にもある」
「国人達でもないですな」
「織田家は国人もよく取り組んでいますし」
己の直臣としその領地も検地等で組み入れていっているのだ。信長はこの辺りも抜かりがなかった。
「では他はといいますと」
「それは」
「寺じゃ」
元就は言った。それだとだ。
「あの辺りには本願寺の寺が実に多い」
「ではその本願寺とですか」
「織田家は」
「揉めるやも知れぬ。そうなればじゃ」
元就の話がだ。変わってきた。
その本願寺についてはだ。彼はこう言うのだった。
「あの者達の力は何じゃ」
「門徒の数にその金の力」
「そしてそれで手に入れた武具」
「そういったものでしょうか」
「それだけではない」
元就はこう家臣達に返した。
「あの者達の力はそれだけではないのだ」
「門徒だけではないと」
「そして金だけではないと」
「では他には一体」
「何があるのでしょうか」
「念仏じゃ」
それだとだ。彼は言うのだ。
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