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戦国異伝

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第四十話 桶狭間へ八


 そしてだ。元就はだ。その目に剣呑なものを宿らせてだった。家臣達に話した。
「その為に今まで手を打ってきたな」
「はい、新宮党を尼子自身に除かせ」
「そして国人達を味方に引き入れ」
「石見も陥としました」
「あの銀山も手に入れましたし」
 石見の銀山だ。そこも手に入れたというのだ。
「尼子の力を弱めてきました」
「今やあの家には昔日の勢いはありません」
「さすれば今攻めれば」
「以前の様に苦戦はしませんな」
「まだ手は打っておくがな」
 元就はその剣呑な光を放つ目で話すのだった。
「尼子の家臣達には刺客を放ちじゃ」
「毒もですな」
「それも盛っていって」
「戦をせずともだ」
 ここからがだ。まさに元就だった。彼は戦よりもだ。謀の男なのだ。それにより安芸を手中に収め陶、大内を滅ぼし今尼子も追い詰めているのだ。その謀は天下随一とまで謳われている。
 その彼がだ。言うのだった。
「謀を上手く使えばじゃ」
「それで多くのものが手に入りますな」
「戦わずとも」
「戦えば負けるやもしれぬ」
 その可能性は常に皆無ではない。戦では何があるかわからない。
「だからじゃ。それはしないに越したことはない」
「それよりも謀」
「それですな」
「効く相手と効かぬ相手がおるがな」
 そうしたこともだ。元就はわかっていた。そこまで見極められるというところがだ。彼が一代の謀略家と言われる由縁であった。
「陶や尼子には効く」
「これまでの様にですな」
「そして大内も」
「ああした者達には使えるのじゃ」
 彼等にはだというのだ。
「しかしじゃ。織田にはどうか」
「うつけだと評判ですが」
「それでもですか」
「間違いなくうつけではない」
 そのことはすぐに否定したのだった。元就にはわかることだった。
「あの男はじゃ」
「では、です」
「あの男は蛟龍ですか」
「そうなるのですね」
「そうじゃな。蛟龍じゃな」
 まさにそうだというのだ。蛟龍だというのである。
「それじゃ」
「ではうつけというのは」
「その見方は誤りだと」
「殿は思われますか」
「すぐにその言葉はなくなる」
 信長をうつけと評するその言葉はだというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「織田の勢力の伸張を見る」
「そうなりますか」
「おそらく織田は」
 どうなるか。元就の話が続く。
「今川を退けじゃ」
「さらにですか」
「そのうえで」
「左様、伊勢と美濃を手に入れる」
 その二国をだというのである。
「そうなれば後は」
「上洛でしょうか」
「それになると」
「そして都の周りの国も全て」
 どうなるかというのだ。その辺りの国々もだ。
「あの男のものとなるであろうな」
「では織田は天下を望むと」
「そこにまで至りますか」
「そこから先じゃな」
 元就はここまでは読んでみせた。しかしだ。 
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