戦国異伝
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第四十話 桶狭間へ五
「勘十郎様が務めておられます」
「やはりな。こういう時はあ奴じゃ」
「勘十郎様ですか」
「あ奴か爺に留守を任せておけば問題はない」
信長の信頼がだ。言葉になって出ていた。
「だからじゃ。それでよい」
「それでは清洲はこのままで」
「勘十郎様にお任せしますか」
「鉄砲はどうなっておるか」
信長は今度は鉄砲について尋ねた。
「それはどうなっておるか」
「一応持って来ました」
答えたのは金森だった。
「やはり。必要かと思い」
「持って来たのはよい」
信長はそれはいいとした。しかしだ。
彼はその金森にだ。こう言うのだった。
「しかしこの戦ではじゃ」
「この戦では?」
「まず鉄砲は使わぬ」
それはないというのだ。
「そして長柄槍もじゃ」
「槍もですか」
「それも」
「そうじゃ。使わぬ」
鉄砲も長柄槍もだ。どちらも使わないという信長だった。そしてその言葉を聞いてだ。
家臣達の誰もがいぶかしんでだ。あらためて彼に尋ねるのだった。
「殿、それではです」
「織田の戦ではないのでは?」
「そうです」
こう言うのだった。彼等はだ。
「鉄砲と長柄槍の二つです」
「その二つで勝ってきたというのに」
「その二つを使わない」
「といいますと一体」
「もう一つ言おう」
信長は笑みを浮かべてそのいぶかしむ家臣達に話した。
「弓も使わぬだろうな」
「それもですか」
「使いませんか」
「そうじゃ。弓もじゃ」
使わないとだ。信長は断言するのだった。
そのことも聞いてだった。家臣達はさらにいぶかしんだ。
特にだ。生駒はこう言うのだった。
「その三つを使わぬとなると」
「わかったか?」
「若しや。ここは」
「さて、まずは熱田じゃ」
その生駒にだ。信長は考える時間を与えなかった。そしてだ。
彼はだ。あらためて周りの者達に話すのだった。
「よいな。そこで戦勝祈願じゃ」
「まずは神にですな」
「それを」
「それをしてからじゃ」
無論祈願だけではない。兵を集める目的もあった。
それをすると言ってである。信長はその熱田にだ。家臣達を引き連れる形で向かうのだった。
そしてだ。熱田に着いた。広い庭を持つ大きな神社だ。そこにだ。
織田の兵達が次々と来る。誰もがほうほうのていである。その彼等を見てだ。
信長はだ。こう言うのだった。
「さて、見たところじゃ」
「見たところ?」
「といいますと」
「二千じゃな」
言うのは数のことだった。
「二千。しっかりおるな」
「ではこの二千で」
「二千で以てですか」
「今より今川に対して」
「兵を向けますか」
「そうじゃ。出羽はおるな」
信長は今度は彼を呼んだ。
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