戦国異伝

「兄上は酒は飲まれぬが」
「そうそう、今宵は誰も酒を飲むなともです」
「そうも仰っていました」
「兵に至るまでです」
「酒をか」
　また考える顔になる信行だった。そのことを聞いてだ。
「兄上は酒は飲まれぬが」
「しかし他の者に飲むなとも仰いませんし」
「普段は」
「そうじゃな。やはり妙じゃな」
「茶は飲めと仰います」
「それについてはです」
「茶はよくとも酒は駄目か」
　信行はまた首を傾げさせて述べた。
「わからんのう」
「茶を飲むのもいいですが」
「それでもやはり酒とは違います」
「飲んでも心は落ち着き目は冴えますが」
　それでもだとだ。小姓達も話していく。
「ですがそれでもです」
「酒のあの気の晴れはないです」
「あれがよいというのに」
「それがないのは」
「まあ言っても仕方がない」
　それは仕方ないと話してだった。信行はだ。
　また茶を飲むのだった。そしてだ。
　そのうえでだ。また小姓達に話した。
「しかし飲み過ぎてどうも目が冴えてきた」
「だからもう一杯ですか」
「飲まれますか」
「そうするとしよう。休むつもりだったが」　
　それでもだと話す彼等だった。そしてだ。
　また茶を受け取りだ。それを飲みながら話すのだった。
「まあ今は飲むとしよう」
「今宵はそうされますか」
「茶を飲んで過ごされますか」
「権六達はどうしておる」
　あらためてだ。柴田達の今の状況を尋ねた。
「もう寝ておるか」
「いえ、それがです」
「どの方も起きられてです」
「茶を飲まれています」
「時折用足しに出られて」
「左様か。誰もが起きておるか」
　信行はそのことも聞いてだった。納得した顔で頷いた。そしてだ。
「茶を飲んでか」
「はい、勘十郎様と同じく」
「そうされています」
「ではわしもじゃ」
　ここでまた言う信行だった。
「権六達のところに行くか」
「そうしてですか」
「茶を飲まれる」
「そうされますか」
「そうするとしようか」
　信行はまた言った。
「人は多くある方が楽しい」
「茶を飲むこともですね」
「それもまた、ですね」
「そうだ。その辺りは兄上と同じだ」
　こう話してだ。彼はだ。
　柴田達のところに向かいだ。そのうえでだ。
　彼等と共にまた茶を飲むのだった。今は誰もが起きていた。
　そのうえで茶を飲んでいく。彼等は今は茶を飲んでいるだけだった。しかしそれでもだ。何かが起ころうとしていた。間違いなくである。


第三十九話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　２０１１・４・２８